日本交通学会賞受賞一覧

2014年
■著書の部
著書名 『交通の時間価値の理論と実際』
著 者 加藤 浩徳(編著) 発行者 技報堂出版 発行年 2013年7月
受賞理由  本書は、時間価値計測という、交通プロジェクト評価において欠かすことのできない重要な問題について、先行研究の紹介、時間価値の推定、実証分析などをまとめたものであり、これまで散発的に各分野の研究者が行ってきた時間価値に関する研究を集大成した労作である。内容は、編者の長年の研究が積み重ねられてきたものであるが、特に海外の事例をサーベイに用いた文献は膨大であり、国際比較部分も読み応えがある。また、貨物交通の時間価値など未整理の課題に言及されている点も見逃せない。
 以上より、審査委員一同は、本書が日本交通学会賞に値する著作であると判断した。
著書名 『持続可能な交通への経済的アプローチ』
著 者 兒山 真也 発行者 日本評論社 発行年 2014年3月
受賞理由  本書は、自動車交通の社会的費用の推定や交通事故傷害の経済評価等、著者が長年にわたって取り組んできたテーマについて、持続可能性(sustainability)をキー・コンセプトとして集大成した労作である。第1章で行われている持続可能性の概念規定の後、著者は、現実の交通問題に経済学的なアプローチがどれほど有効かを検証している。経済理論に基づいた実証分析や実際の事例についても政策分析をバランスよく行うなど、説得力に富む内容になっている。
 以上より、審査委員一同は、本書が日本交通学会賞に値する著作であると判断した。
■論文の部
論文名 「ソフトな予算制約問題と第三セクターのパフォーマンス−運輸分野を対象とした実証分析−」
執筆者 松本 守
後藤 孝夫
対象誌 『交通学研究』第57巻 発行年 2014年3月
受賞理由  本研究は、第三セクターの交通事業者を対象にして、補助金交付や損失保証契約などの「ソフトな予算制約」が、事業者のパフォーマンスに影響を与えるかどうかを計量経済学の手法を用いて分析したものである。問題設定自体は必ずしも新しいものではないが、第三セクターの経営改革が求められている現状に照らせば、時宜に適った分析であるといえる。分析内容については、モデルに含まれる変数間の関係性を明確化すべきである等の意見も見られたが、これらは、著者等の今後の研究において克服されるべき問題と考えられる。
 以上より、審査委員一同は、本書が日本交通学会賞に値する論文であると判断した。
2013年
■著書の部
著書名 『通信と交通のユニバーサルサービス』
著 者 寺田 一薫
中村 彰宏
発行者 勁草書房 発行年 2013年3月
受賞理由  再分配の議論は交通・通信分野において中心となる重要な課題であるが、本書は、通信・交通産業を対象に、「公正の概念」、「内部補助問題」等ユニバーサルサービスに関係する理論的枠組みを整理した上で、電話、郵便、バス等、具体的にユニバーサルサービスが問題となる分野について、計量的な実証分析を含めて、現実に即した分析を行い、それに基づいた政策提言を行っている。すなわち、政策論にとって必要な理論の構築、現状の実証的分析、政策含意が総合的に論じられている点が評価される。この種の問題は、個別具体的な事例に即して分析されるケースが多いが、著者等は、上述の総合的な分析によって本概念の体系化を目指していると考えられ、その意欲の点でも重要な研究である。また、ユニバーサルサービスの確保に関する支払い意思額の測定といった挑戦的な試みも、きわめて興味深い。
 理論的な分析と政策提言には学者らしい慎重さがみられるが、それが一方で物足りなさを感じさせるのと、著者二人の議論の融合性が不十分であるため、交通分野から見れば通信分野での議論が(あるいは通信分野から見れば交通分野での議論が)どのように活かせるのか、明示的でない点に不満は残るが、それらの点を考慮しても、この研究が前述のとおりの理由により、学会賞のレヴェルに十分達していることは疑いがない。よって本書に2013年度交通学会賞(著書)を授与する。
■論文の部
論文名 「米国航空産業における合併効果と低費用航空会社の運賃設定行動−デルタ航空・ノースウエスト航空のケース−」
執筆者 朝日 亮太 対象誌 『運輸政策研究』15巻4号 発行年 2013年3月
受賞理由  本論文は、標記航空会社の合併ケースをとりあげて、合併の効果が運賃に及ぼす影響を計量実証的に分析し、合併により集中度を高めた方がかえって競争的価格形成が導かれることを示している。合併が運賃等に与える影響についての分析は、LCC が本格展開した後の時期におけるケースは先行研究が少なく、その意義は大きい。扱うケースが1件であるため、結果の解釈が難しく、一般的な傾向を示すのか否かという疑問は残るものの、分析には膨大なデータが扱われており、計量分析の手法に関しても工夫が図られていること、かつ、一定の政策含意も示されていることから、交通学会賞に相応しい論文の水準とみなし得る。よって本論文に2013年度交通学会賞(論文)を授与する。
論文名 「民営化が高速道路運営に与えた影響−DEAによる分析−」
執筆者 木村 真樹
赤井 伸郎
倉本 宣史
対象誌 『交通学研究』56号 発行年 2013年3月
受賞理由  本論文は、道路公団の民営化が高速道路運営に与えた影響について、DEAによる効率変化分析を行い、民営化が生産効率の改善をもたらしたことを示したものである。高速道路の整備運営は、運営部分の民営化の際に運営と整備が切り離されて制度が変わったため、民営化前後の業績比較は容易ではないが、本論文では、民営化前後の財務データを工夫して加工することによって、前後の業績比較を可能にして民営化の効果を検証しており、その点が大きな特徴かつ政策上・学術上の貢献といえる。この計測結果を運営部分の民営化の効果とみるかどうかは異論もあるだろうが、高速道路の運営業績を対象にした先行研究(特に計量実証分析)が少なく、かつ、データ入手が限られている中で、学会賞に値する一定以上の努力と工夫がなされている論文と考える。よって本論文に2013年度交通学会賞(論文)を授与する。
2012年
■著書の部
著書名 『日本経済のロジスティクス革新力』
著 者 宮下 國生 発行者 千倉書房 発行年 2011年2月
受賞理由  本書は、物流・ロジスティクスを実証的に分析することによって、経済全体の潮流を把握しようとする、著者の生涯研究の一環を成す書である。本書の大きな特徴は、ロジスティクス革新力の観点から、グローバルに展開される競争を実証的に解明したところにある。日米製造業におけるロジスティクス革新力を比較した第喫圈▲蹈献好謄クスの観点から日本経済の構造転換を分析し、アジア経済におけるその位置づけを解明した第曲圈∧流インフラと市場インフラの機能を分析した第景圓蓮△い困譴盖重な示唆に富み,分析の完成度も高く、学会賞として十分な学術的水準を有すると判断される。よって、本書に2012年度学会賞を授与する。
■論文の部
論文名 「大都市高速鉄道の費用構造に関する分析」
執筆者 原田 峻平 対象誌 『交通学研究』(2011年研究年報) 発行年 2012年3月
受賞理由  大都市圏の鉄道は、大手・中小の2グループに分けた政策対応がなされている。本論文は、そのような現行の2分類法の是非を、大都市圏における鉄道事業者の費用関数を計量経済学的に推定することによって論じようと試みたものである。費用関数の推定だけでなく、規模の経済性,密度の経済性等についても、両グループの差異を分析し、2グループに分ける必要性を再確認している。分析過程や政策インプリケーションの点で、十分とはいえない部分もみられるが、オーソドックスな課題を最新の研究成果を利用して正確に分析しており、学会賞としての一定の水準に達した論文であること、また、著者が現在まだ研究生活の入り口にあるに過ぎず、その将来性に十分期待し得ることを考慮して、学会賞を得るにふさわしい業績であると判断した。よって、本論文に2012年度学会賞を授与する。
2011年
■論文の部
論文名 The effect of governmental subsidies and the contractual model on the publicly-owned bus sector in Japan
執筆者 酒井 裕規
正司 健一
対象誌 Research in Transportation Economics 発行年 2010年
受賞理由  本論文は、日本の公営バスを中心とした乗合バス事業を対象に、補助金と業務委託(営業所の管理委託)に焦点を当て、これらの要因が事業者の費用構造へ与える影響を、構築・推定したトランスログ型総費用関数に基づいて分析し、その結果に基づき議論を行ったものである。欧米での改革の議論をふまえつつ、日本の改革の動きを紹介しただけでなく、ガバナンス問題といったホットで難しい問題を取り扱っている。公営バスの費用関数を堅実な手続きによって構築し、補助金が効率性を悪化させる可能性をもっていることを計量的に明らかにした点は評価される。海外の代表的な査読付き学術誌に掲載されていることも、学術水準は十分に高いと判断される。よって、学会賞(論文の部)に値するものと評価した。
論文名 Temporal Transferability of Updated Alternative-Specific Constants in Disaggregate Mode Choice Models
執筆者 三古 展弘
森川 高行
対象誌 Transportation 発行年 2010年
受賞理由  本論文は、非集計交通手段選択モデルの方法のなかで、特に定数項の移転性という手法に関しての純粋学術的な問題を取り扱ったものである。以前から、所要時間や費用などにかかるパラメータが移転可能であるとすることについて理論的根拠はあるものの、実際には説明変数では説明されない要因を含む定数項は時点や地点に固有の部分が大きいと考えられ疑問がもたれていた。本論文は、定数項の地域移転性と時間移転性を同時に分析し、この点での問題を解消している。 得られた結果は、政策的な示唆も与えている。過去のサービスレベルが将来の行動に影響を与えていること、同じ所要時間の短縮でも公共交通の時間の短縮と自動車の時間の短縮では行動に異なる影響を与えること、同じ所要時間でも以前よりも短くなったのか長くなったのかで行動が異なること、も示唆している。海外での代表的な査読付き学術誌に掲載されていることからも分かるように学術水準は十分に高いと判断される。よって、学会賞(論文の部)にふさわしい論文であると評価した。
2010年
■著書の部
著書名 『道路投資の便益評価;理論と実践』
著 者 森 地茂
金本 良嗣(編著)
発行者 東洋経済新報社 発行年 2008年11月
受賞理由  本書は、道路投資の便益評価に関し、理論的側面と実践的な側面の両面から系統的に取りまとめた研究書である。全体は、2部構成からなり、1部では、「便益測定の方法」と「交通需要予測の方法」との関連性や、「費用便益分析マニュアル」の経済理論との整合性などを取り扱っている。ここでは、道路投資の便益評価について、包括的で精度が高い理論的な整理を行い、併せて、便益測定方法に関しての実施可能でかつ望ましい適用について、実務の立場から検討している。2部では、道路事業の費用分析において、今後重要となってくると考えられる論点である便益計測方法や交通需要予測の方法上の個別の課題の分析にあてており、誘発交通を考慮した便益計測、緊急輸送のリスクを含む計測、CO2の経済評価、財源調達との関連での検証など、既存文献において未整理であった領域を含めて、広範囲で多角的な検討を行っている。全体として、道路投資の費用便益分析の問題点を理論と実務の双方の観点からとりあげ、丹念に今日的な問題点を含む改善方策を探っている点は高く評価される。本書はこれまでの研究の集大成であるが,併せて、今後の研究の方向性も示していることから、内容の完成度が高く新規性を取り込む意欲的な取り組みの成果が結実されていることなどから、学会賞授与に値する著書と評価した。
■論文の部
論文名 「地域の自動車利用に対する費用負担に関する分析−燃料税に関する議論を中心に」
執筆者 鈴木 裕介 対象誌 『交通学研究』(2009年研究年報) 発行年 2010年3月
受賞理由  本論文は、自動車の外部費用について都道府県別、車種別に推計し、現在のガソリンなどの燃料課税がこれらの外部費用をどの程度カバーしているかについて詳細に検討している。併せて、道路整備水準と外部費用の関係を丹念にかつ系統的に分析を行っている。外部費用の算定モデルを用いたうえで入手可能なデータを駆使し、地域別・車種別の外部費用の推定を行っていることは、研究上、大きな貢献といえる。さらに、推計結果を用いて現在とられている政策を評価している点、政策形成上に有益な情報を提供している点も価値ある成果であり、学会賞授与に値する論文と評価した。
論文名 「鉄道の上下分離に関する分析」
執筆者 黒崎 文雄 対象誌 『交通学研究』(2009年研究年報) 発行年 2010年3月
受賞理由  本論文は、リーズ大学に提出の博士論文の一部を取りまとめたもので、世界各国で実施された鉄道改革の中で特に上下分離政策をとりあげ、その形態と特徴を明らかにしたものである。多岐にわたる文献および各国の鉄道事業者の管理者等に対するインタビューと質問票に基づく分析によって、上下分離の形態種別と類型化を系統的に行い、それぞれの特徴を詳細に析出している点は評価される。さらに、市場構造に応じて適切と想定される上下分離の形態を提示し、今後の日本における事業契約に基づく鉄道経営の可能性を展望し政策上の示唆を提供している点も研究成果として価値ある成果であり、学会賞授与に値する論文と評価した。
2009年
■著書の部
著書名 『対距離課金による道路整備』
著 者 根本 敏則
味水 佑毅
発行者 勁草書房 発行年 2008年10月
受賞理由  今日、道路政策が転換期を迎えており、現実に公団の民営化や特定財源の一般財化等が進んでいるが、その後のあるべき姿が、必ずしも明瞭に見極められているとは言い難い。本書は、現在の制度疲労の問題と整備効率の改善をはかる制度改革の必要性についての認識を前提に、受益者負担の原則に立ち返り、なかでも、次世代型の場所、時間で対距離料金水準を変えられる対距離課金制度に注目し、分析を行っている。本書の骨子は、対距離課金の意義と目的を理論的に明らかにし、シミュレーションによる実証分析によって、対距離課金が短期的な交通需要管理、長期的な道路整備に寄与でき、それにより社会的限界費用に基づく課金を実現できることを示していることにある。道路利用者の受益と負担が一致する制度設計を目指して実証分析を行い、車種間、地域間の観点による自動車の費用負担に関する試算によって、貨物車への負担と地域間内部補助の比率について具体的提言を行っている点は、既存研究にみられない本書の特徴となっている。さらに、分析の出発点となる受益者負担の「理念」について、先行研究の検討をもとに入念に整理を行い、対距離課金制度の事例についても、導入が進んでいる欧州の事例についての充分なサーベイを行ったうえで検証結果を導きだしていることも、本書の価値を高める特徴点となっている。提唱される方式は、維持管理が中心となる時代の道路整備方式として適切であるだけでなく、受益者負担にもとると感じられてきた不均等を是正し、今後の投資計画に負担者の参加が得られやすいような仕組みとしても提唱されており、説得的なものなっている。一方、本題部分の比率が小さく、やや構成に不完全さがみられる。これらの課題はあるが、新たな視座で、先行研究に勝る理論的、実証的検証による成果をおさめていることから、本書は日本交通学会賞の授与に値するものとして評価される。
2008年
■著書の部
著書名 『公共政策の変容と政策科学―日米航空輸送産業における2つの規制改革』
著 者 秋吉 貴雄 発行者 有斐閣 発行年 2007年1月
受賞理由  本著は、政策決定過程についての理論的整理をもとに、米国および日本における航空規制緩和を事例として、政策が変容する政治的プロセスをモデル的に扱うフレームワークを構築し、航空規制緩和といった政策変容を対象に、日米の政策決定過程の差異とそれに関する要因分析を行ったものである。政策決定過程の理論的展開を行った前半部分では、政策決定過程の分析のフレームワークについて、従来の政策科学の主流であった多元主義とは異なる潮流をとらえて整理し、制度によるアクターの行動の制約、政策アィデアの構築、政策分析等によって得られた知識等をもとにする政策学習といった概念を示し、それぞれについて検討を行っている。後半の部分では、前半で検討した概念とフレームワークに照らして、日米間における政策経過と政策変容の差異と特質、それらの要因などについて、多くの第一次資料を駆使して検討を行い、80年代に開始される日本の規制緩和が競争制限的な内容にとどまっている諸元について解明を行っている。これによって、制度に関しては、航空局による「場」のコントロール、「割拠的自律性」が示され、政策遺産による制約、政策アィデアに関しては、それを推進する認識コミュニティが形成されず、規制緩和の価値観などについて混乱がみられ、最後のプロセスをなす政策学習に関しては、議論が尽くされず「学習の歪み」を生じたとして、明示的な結論を導き出している。交通の研究分野において、政策決定過程論について新たな分析の視座を提示して理論的検討を行い、これに照らして、複雑な政策変容に関して実証的な分析を試みその変容の要因を導き出している点は、ユニークであり、これまでの先行研究にみられない優れた研究実績といえる。以上から、学会賞の授与に値するものと評価できる。
■論文の部
論文名 「地域間道路の関連地域による連携的整備の一般均衡分析―居住地選択モデルへの拡張−」
執筆者 福山 敬
田村 正文
対象誌 『交通学研究』(2006年研究年報) 発行年 2007年3月
受賞理由  本論文は、地域政府が地域の税収を原資として地域間交通基盤施設の整備を地域自身が行うような地域分権的な交通基盤整備の可能性を一般均衡モデルによって分析したものである。地域政府が主体となり分権的に地域間インフラを整備する枠組みに関して分析が少ない先行研究の経過のなかにあって、各地域が地域間道路の自地域部分に関して整備水準を決定する「地域別整備制度」と、地域間道路を共有する2地域が共同出資により道路全体を同一水準に整備する「合同整備制度」という2つの分権的整備制度を設定して、各制度の下での各地方政府の整備決定とそれが経済に与える影響について,筆者らが行ってきた一連の分析は,地方分権下での中央政府による地域間所得移転の影響の分析を行っている点もあわせて,ユニークな研究成果と位置付けることができる。本論文ではこれまでに立地変更をしないと仮定してきたものを,住民が効用最大化をめざして居住地選択を行うことを可能としたモデルに拡張して定式化し,数値解析によって結論を導いている。分析によって、注目されるのは、「地域別整備制度」において、居住地選択モデルでは,地域政府の整備決定に以前の仮定の厳しいモデルではなかった戦略的代替性が現れえること、地域間所得移転の影響に関しては、居住地選択の導入により格差が是正し移転の役割が消滅することが明示されている点である。地方分権・連携の下での地域間インフラ整備の可能性についての分析を精緻化し、政策的示唆を導きだしている点で、学会賞に値するものと高く評価できる。
論文名 「交通アクセスを考慮した観光地の魅力度評価」
執筆者 鎌田 裕美 対象誌 『交通学研究』(2006年研究年報) 発行年 2007年3月
受賞理由  本論文は、観光地の選択要因に影響を与える魅力度の計測を行い、交通アクセスの影響を考慮した上で消費者の観光地選択モデルを検討するものである。分析は、LancasterとRuggの消費者行動モデルにもとづいた効用関数を仮定し、定義した魅力度と交通アクセス条件に従って実証的レベルでの計測を行っている。魅力度について、既存研究では、スポット評価でとらえがちであるが、それにとどまらず、観光が即地性を有するために他の財より所要時間、費用等の制約が多いことから、スポット評価、交通アクセス、費用の範囲で計測方法の整理・検討を行い、わが国の一般的な観光地の一つである温泉地を対象として、コンジョイント分析などを援用し、計測の実証的検討を行っている。そして、その分析結果から観光地にとっての具体的戦略への示唆を導き出している。著者も指摘している今後の課題は残されているが、この領域の魅力度計測の研究について、理論に基づいた枠組みで計測する方法を整理したうえで実証的検討を行っていることは、既存研究にみられない大きな成果といえる。さらに、分析結果から、観光地間の競争において一定の戦略上の示唆を与える結果を導きだしているのも、本論文の価値を高める特徴点となっている。以上から、論文の部学会賞授与に値するものと判断される。
2007年
■著書の部
著書名 『都市交通ネットワークの経済分析』
著 者 竹内 健蔵 発行者 有斐閣 発行年 2006年10月
受賞理由  本書は、都市における交通のネットワークの問題を経済学のアプローチを使って分析したものである。著者の学位論文の一部に加筆修正を加えた全14章からなっており、質の高い労作といえる。主要な部分の出発点は、交通ネットワーク上で観察される交通調整を論理的に定義したワードロップの原理であり、それとそれを発展させた研究について、広範かつ包括的な検討を行うことによっている。そのうえで、交通政策上も重要な意味をもつネットワークにおけるパラドックスについて、その経緯、原因、理論的背景、政策的示唆に関し数値例を使って分析している。系統的な関連づけのなかでの実証的な可能性の検証は、分析を際立ったものにしている。これらに次ぐ鉄道と道路といった代替関係にある都市交通ネットワークの分析は、ロードプライシングや料金規制といった政策の最適化をネットワーク均衡に関連づけて検討しており、これまでにない新しい試みを示している。これに加え、分析結果については、仮想的数値例をシミュレートされ、そこから新たな知見も提示されている。さらに、相互に代替的な同一交通機関内のネットワークを取り上げ、そこでの最適料金問題について実証のシミュレーションを含め、多面的な分析がなされている。本書は、従来、経済分析がとりあつかわなかったネットワーク分析、交通量配分理論を経済学の視点から取りまとめた大著であり、本学会への貢献度は極めて高く、学会賞授賞文献としてまさに適格である。
■論文の部
論文名 「第三セクター地方鉄道の費用構造に関する計量分析」
執筆者 大井 尚司 対象誌 『交通学研究』(2006年研究年報) 発行年 2007年3月
受賞理由  本論文は、第三セクター地方鉄道を対象に費用構造について定量分析を行い、有益な知見を示したものである。従来、地方鉄道の経営面に関する定量分析の成果が少ない中で、データを丹念に整理・吟味したうえで、計量可能な形に仕上げ、民間との比較の観点から費用関数分析を行い、有意な形での結論を導き出している点は、注目すべき成果として評価できる。費用関数の推定にあたっては、基本統計量の十分な検討のうえで、従来のモデルに工夫を加えて、推定結果を導き、その結果に所有形態、制度上の差異を関連づけて含意ある解釈を行っている。結論は、経営上、政策上の示唆を含んでおり、この点も本論文の価値を高めている。最後の部分で、さらなる研究上の課題が提示されているが、若手研究者の成果として、むしろ、好感を与えるものとなっている。手堅い定量分析に努め、その分析結果に実効性をもたせており、学会賞授与文献としてまさに適格である。
2006年
■著書の部
著書名 『米国航空政策の研究−規制政策と規制緩和の展開−』
著 者 塩見 英治 発行者 文眞堂 発行年 2006年4月
受賞理由  本書は米国の航空政策を、1978年までの規制政策、それ以降の国内規制緩和、並びに国際自由化という3つの大きな枠組みで包括し、米国を中心とした航空産業組織構造の変化の主要項目をほぼ網羅して体系的に研究した労作である。航空規制に関しては、規制にさかのぼる前史および政策の成立についての膨大な論文ならびに資料を基に詳細な制度的分析を行っている。特に米国の議会資料や、散逸した戦前の資料あるいは学術論文を整理・検討している点は、今後この分野を志す研究者に対する大きな学術的貢献であると認められる。また規制緩和政策に関しては、労使関係、合併、価格戦略、発着枠配分ならびにCRSに関して問題点を検討し、将来的課題を整理している。その中で、従来はこれらの問題の発生から解決に向けての経緯と方策が幅広く均等に検討されてきたのに対し、著者はスロット及びCRS問題に関してより重点的な課題を選び検討するという、ある種の「戦略性」をもった制度的分析を行っている点が興味深い。
 このように本書は、広範な課題を分析するという面で多くの制約を受けながらも、米国の規制緩和政策を日本に適用しようすればどうなるのかという分析視角を常に用意し、研究内容にしっかりとした筋道を与えて、分析結果に実効性を持たせようと努力しており、学会賞授賞文献としてまさに適格である。
著書名 『交通混雑の理論と政策 −時間・都市空間・ネットワーク−』
著 者 文 世一 発行者 東洋経済新報社 発行年 2005年12月
受賞理由  本書は、ピークロードや混雑税の理論を都市の空間構造を踏まえて論じたパイオニア的な成果であり、先端の成果を多く含んでいることも注目に値する。以前は,ともすれば机上の議論と考えられてきた混雑料金やロードプライシングが最近では現実的な政策の選択肢となってきている。しかし,そのオリジナルアイデアを提示した経済学(経済分析)は、実際の料金政策の決定や制度の設計に際しての貢献では力不足となっている。その背景には、著者の指摘するように、混雑料金に関する従来の経済理論の中心が、単一の交通施設を対象とした静学モデルであったことがある。この点を打破し、混雑料金について「いつ」、「どこで」の問題を取り扱うために考察を時間および空間の次元に拡張し、より現実的な政策分析を展開した本書の貢献は大きい。
 このような理論の発展に向けての努力の結果、著者の成果を含めて、近年多様な研究蓄積が急速に進みつつある。本書が、これらを体系的に整理して提示している点も今後同分野の研究を志す者にとって有用である。理論的研究と定量的研究も整合的であり、さらに,混雑の経済理論のみならずこれに関連する交通工学分野の議論を同時に学べる点も、本書の特色である。このように本書は、現代的課題である交通混雑について、時間・空間に拡張した経済モデルを用いて、実際の経済政策への活用を図った労作であり、学会賞授賞文献としてまさに適格である。
■論文の部
論文名 「低費用航空会社参入の経済効果と時間効果の計測―米国3社寡占市場のケース―」
執筆者 村上 英樹 対象誌 『交通学研究』(2005年研究年報) 発行年 2006年3月
受賞理由  本論文は、米国における低費用航空会社(LCC)の新規参入効果がどの程度の期間持続するかを、交通経済学と産業組織論の既存の研究成果を融合することにより理論的・実証的に明らかにした上で、消費者余剰への新規参入の影響がどのように推移するかを分析している。本論文の貢献は、(胴颪砲ける従来の研究では、低費用が低運賃に直結するかについては、直感的な合意をもとに論理を展開し、また「輸送密度の経済性」の存在に理論的に配慮していない点を改め、これらの理論的枠組みを補った上で計量経済モデルを構築していること、LCCの新規参入直後の運賃と輸送量への効果を3段階最小2乗法による構造方程式の推定を通じて明らかにしたこと、新規参入後の運賃と輸送量の推移を、拠点空港のみならずセカンダリ空港のケースも含め明らかにしたこと、ならびにた卦参入政策を、消費者余剰の推移を基準にして、国民経済的な面から評価していること、つまり、財務的に健全な企業が参入した場合には運賃水準が修復されることなく低水準で安定し、消費者余剰が大幅に増加するのに対し、脆弱な財務状況の企業が新規参入を行った場合には逆の結果が現れることを明らかにしたこと、である。特にい療世蓮⊃卦参入が政策介入により選択的に行われる必要性があることを示唆している点でも重要である。もっとも線型理論モデルの一般化と生産者余剰を考慮した総余剰分析面に課題を残すとしても、学会賞授賞文献としてまさに適格である。
2005年
■論文の部
論文名 「産業連関表における自家輸送部門の修正―粗付加価値の導入による現実への接近」
執筆者 加藤 一誠
太田 和博
対象誌 『交通学研究』(2004年研究年報) 発行年 2005年3月
受賞理由  本論文は大きな比重を占めながらも全体像のつかみにくい自家輸送を産業連関表から抽出し、粗付加価値を含む自家輸送部門の規模と態様を明らかすることを意図している。日本の産業連関表における自家輸送マトリックスに粗付加価値が含まれていない問題点を回避することをめざして,既存データを用いてこの短所を修正する試みとして、本論文では、営業輸送部門の粗付加価値率を利用することを提示し,それによって自家輸送部門の影響力係数と感応度係数がどのように変化したかを観察・確認して、修正方法の妥当性を検証し、概ね良好な結果を得ている。なおこの方法に基づく修正産業連関表も第一オーサーである加藤氏単著の近刊論文として発表される予定であり、研究の着実な発展が期待できる。このように本論文は、わが国経済に占める物流部門の位置付けに対するより正しい理解を促進するとともに,運輸統計整備のあり方ともかかわって、今後の交通経済分析に大きく貢献する可能性を有するものと評価でき、学会賞授賞文献として適格である。
論文名 「交通手段選択行動におけるサービス属性の評価について」
執筆者 毛海千佳子 対象誌 『交通学研究』(2004年研究年報) 発行年 2005年3月
受賞理由  本論文は、伝統的な離散選択モデルの想定とは異なり、各個人は同一の市場情報を保有していないとの視点より,従来ブラックボックスとして取扱いが回避されてきたサービス品質等に対する個人間の知覚の違いといった要素を研究に取り込むことが重要であるとの認識の下で,少ない先行研究をよく整理吟味したうえで、果たしてサービス属性に対する主観的評価が交通手段の選択行動にどのように影響を与えるのかを,尼崎市民が市役所に行くケースについて、バス、自動車、および自家用車の3手段の属性をあらかじめ示した上で回答によって得たデータを用いて各属性の有意度を求めようとしており、交通手段選択推計のひとつのアプローチを示したものといえる。この分析結果だけでは一般化を図るには不十分であり,また分析手法に対し異論はありうるとしても、新たな分野に挑戦したという努力は高く評価されるべきであり、本論文は学会賞授賞文献として適格である。
2004年
■著書の部
著書名 『交通経済論の展開』
著 者 衛藤 卓也 発行者 千倉書房 発行年 2003年9月
受賞理由  本書は、交通経済学の体系化を目指して執筆されたもので、方法論、現状分析、「あり方」の3部から構成されている。広範な問題とその認識に言及しながらも、交通経済研究において幾分稀薄になっていた感のある「交通経済論の体系化」という課題を、全編を通じてきわめて強く意識しながら、交通サービス、交通市場、規制、規制緩和の分析を展開している。これらの分析対象の「現状」および「あり方」を、一貫して理想的モビリティ社会の構築への寄与という視点から整理しようとした著者の姿勢そのものが、その着実な論理展開と合わせて、高く評価されるものである。このように、現状認識から理想像を構想・吟味し、それを「目標」として設定した上で、望ましい複数の「手段」を比較考量して形成された規範的な知識体系を、社会構成員の多くが合意できるかどうかのチェックを試みることによって、現状と現実の政策の「評価」を行い、改善のための「対策」を提示していることは、今後の学会の社会貢献に対し大きな一石を投じるものといえる。交通政策論の基本を押えた意欲的労作として、学会賞授賞文献としてまさに適格である。
■論文の部
論文名 「米国都市交通資本整備に対するISTEAおよびTEA-21の効果と評価〜フレキシブル・ファンドの制度的枠組みを中心に〜」
執筆者 川尻 亜紀 対象誌 『交通学研究』(2003年研究年報) 発行年 2004年3月
受賞理由  本論文は、米国の1991年インターモーダル陸上交通効率化法において道路と公共交通の間での資金流用を許容するプログラムとして導入されたフレキシブル・ファンドを分析対象とし、その運用実績の確認を通じて連邦陸上交通政策の問題点を検討している。調査研究機関の研究員としての立場を活用した調査・検討は詳細を極めており、その内容の整理と紹介自体が、本論文の貢献点として評価される。それにとどまらず本論文は、当該研究課題に関する先行研究の考察を超えて、ファンドの活用実績における「地域差」に関する分析を一層深めており、この点はわが国公共交通整備の制度構築のための議論の一助となると高く評価でき、学会賞授賞文献として適格である。
論文名 「運輸事業の規制緩和と経済厚生―道路貨物輸送事業を対象として―」
執筆者 水谷 淳 対象誌 『運輸政策研究』Vol.6, No.2 発行年 2003年7月
受賞理由  本論文は、1990年のいわゆる物流二法の施行以降の道路貨物輸送事業に対する大幅な規制緩和によってもたらされた経済厚生改善効果を、その評価のために構築された独自のモデルを活用して、計量経済的に分析・評価した研究である。制度の変化をモデル化するとともに、現実に照らしてデータの取捨選択に努めることによって、構造変化を組み込んだモデル分析を展開した結果、規制緩和による荷主の厚生改善を導いている。これは先行諸研究の分析結果とも整合しており、適切な判断と解釈がなされているものと評価できる。現実から遊離せず、着実な研究努力を積み上げたモデル分析は、意義ある政策評価として結実しており、本論文は学会賞授賞文献として適格である。
2003年
■論文の部
論文名 「道路投資評価における費用負担分析に関する一考察」
執筆者 味水 佑毅 対象誌 『交通学研究』(2002年研究年報) 発行年 2003年3月
受賞理由  わが国においては、公共投資の費用対効果の問題は、以前より、実務の分野のみならず研究分野においても多くの議論がなされてきたけれども、個々の投資の資金が誰によって負担されてきたかについては、あまり議論されてこなかった。本論文は、地域的な資金配分の妥当性を考えるために、交通社会資本整備の政策評価手法に公平性の評価基準が欠如していることの問題認識から出発し、費用便益分析のような効率性の分析手法に加え、利用者グループをプール化することにより、自地域の負担額と地域間内部補助による調整後の自地域の投資額を比較した費用負担分析の導入の必要性を強調し、簡単なモデルにより、理論的検討を行う手法を提示している。そのアイディア自体は既往のものであるが、シナリオの設定とモデル分析によって「費用負担分析」を実行し、その公平性評価分析への活用可能性をある程度まで説得的に示した点に価値が認められる。このように本論文は、現実の交通政策への適用可能性を念頭におき、政策論と学問的手法を整合させたという点で、学会賞授賞候補文献として適格である。
2002年
■著書の部
著書名 『都市公共交通政策―民間供給と公的規制―』
著 者 正司 健一 発行者 千倉書房 発行年 2001年5月
受賞理由  本書は私鉄企業の事業展開を公共交通サービスの民間供給と公的規制のかかわりの側面から検討を加えることによって、量的にもまた質的にも私鉄企業が重要部分を占めるわが国の都市交通システムを、政府の規制・助成の視点と自立採算型経営を行う私鉄企業経営の視点の両面より総合的かつ体系的に分析した労作である。特に的確な経済理論に裏づけられた政策分析は強い説得力を持ち、また私鉄の多角的事業展開に関する数量分析は政策論の枠を超え、本研究に一段の厚みを加えているなど、その業績は高く評価できる。
著書名 『バス産業の規制緩和』
著 者 寺田 一薫 発行者 日本評論社 発行年 2002年1月
受賞理由  本書はダイナミックに変化するバス事業の規制緩和問題を中心に、特にこの分野において先進的なイギリス及びフィンランドの政策を詳細に紹介し、それとわが国のバス事業の実態と政策を対比の上、政策評価の提言を試みた労作である。特にバス輸送政策に関する豊富な海外フィールド研究を単なる状況紹介や表面的研究に終わらせず、経済理論との整合性にも留意しながら、学問的水準の高い体系的研究にまで高めた点は、これまで理論的蓄積が比較的少なかった分野における集大成的業績として高く評価できる。
■論文の部
論文名 「費用便益分析再論―ネットワークに焦点を当てて―」
執筆者 城所 幸弘 対象誌 『交通学研究』(2001年研究年報) 発行年 2002年3月
受賞理由  本論文は交通サービスのネットワークの便益測定に当たって、ネットワークを明示的に考慮した経済理論モデルを応用して分析し、現行の便益測定計算に改善するべき余地があることを理論的に整理解明しようとした意欲的な研究であり、交通投資評価の基礎理論の強化に資する可能性が高いと評価できる。なお同様のテーマは、同氏の『運輸政策研究』15号、2002年1月掲載論文でも扱われている。
論文名 「交通環境負荷軽減のための経済的手法の比較検討―ロードプライシングと燃料税」
執筆者 岡田 啓 対象誌 『交通学研究』(2001年研究年報) 発行年 2002年3月
受賞理由  本論文は、ロードプライシングと燃料税の持つ環境負荷軽減効果を比較分析するに当たり、混雑税理論に工夫を加えることによって、比較の枠組み及び手法の妥当性に周到な配慮を加えながら定量的な分析を試みて、交通量、環境汚染物質排出量に対する政策効果を比較した労作であり、環境税の導入と既存の税制との調整などの問題にも有用な示唆を与えるものと高く評価できる。
2001年
■著書の部
著書名 『現代欧州の交通政策と鉄道改革−上下分離とオープンアクセス−』
著 者 堀 雅通 発行者 税務経理協会 発行年 2000年4月
受賞理由  本書は欧州における鉄道改革という重要課題に上下分離政策を中心に取り組んだ本格的な研究であり、内外を問わず多数の文献を渉猟され、本テーマに関わる海外事情の整理・紹介と言う面では、刊行後1年以上が経過した現在もなお、われわれが利用できる最も詳細な研究成果であり続けている。そこでは制度と経営環境を含めた報告と議論が展開されているが、単なる欧州の報告に終始せず、北米やアジアの例も含めて政策的含意を明らかにしようという努力が認められる。同時にこれらの政策の背後にあるロジックを理論に基づいて明らかにしようという積極的一面も評価できる。インフラ使用料政策やコンテスタビリティ理論の応用について内容的に未完と見られる部分も含まれるが、今後の研究に待ちたいと思う。本書は欧州における鉄道の上下分離の実証研究としては見逃しがたい労作であり、学会賞授賞文献としてまさに適格である。
著書名 『EU陸上交通政策の制度的展開−道路と鉄道をめぐって−』
著 者 中村 徹 発行者 日本経済評論社 発行年 2000年10月
受賞理由  本書はEUの発足時から現在にいたる英国およびヨーロッパの交通政策にうち、特に道路と鉄道の交通政策の展開過程を詳細に跡づけ、これらの政策が環境問題を重視した交通調整政策としての体系性を有する点を解明した労作である。これまでもこの種の研究はすでにいくつか散見されるが、EU関連の第一次資料をこれほど豊富かつ丹念に渉猟した業績は類を見ないであろう。特に、道路貨物料金の自由化、道路貨物輸送の自由化、道路輸送部門における社会的規制の調和、道路関連税をめぐる議論の部分は、とりわけEUの陸上輸送の自由化が抱える問題とその現実的解決策について、日本の現在の政策論議に貴重な示唆を与えるものである。その際EUの掲げる誘導的需要調整政策の誘導効果につき、もう一歩踏み込んだ著者独自の研究の展開があればさらに説得力が高まったと惜しまれる。この点は今後の研究に期待したい。本来地味でしかも複雑な様相を持つEUの国際貨物輸送をテーマに、その積極的交通政策の展開を解明しようとした労作はまさに学会賞授賞文献として適格である。
■論文の部
論文名 「株式市場に見る経済的規制の緩和による影響−航空産業を事例として−」
執筆者 手塚 広一郎 対象誌 『交通学研究』(2000年研究年報) 発行年 2001年3月
受賞理由  本論文は90年代後半に我が国で実施された航空輸送産業に対する規制緩和がその資本市場、特に株式市場にどのような影響を与えたのかを定量的に分析しようとする意欲的な研究である。資本投資家のリスク回避に対する期待形成モデルに基づき、Peltzmanなどの既存研究を参考にしつつ、参入規制緩和が既存航空会社の収益上のリスクを高めたのかどうかを、個別的には対応不可能なシステマティック・リスクの符号と数値の変化を通じて統計的に実証しようとして、選択的な収益率決定モデルを構築し、その推定結果をダミー変数法とChowテストによって検証している。そこでは、システマティック・リスクが参入規制の緩和によって高まったという、株式市場の判断が導かれている。これに対しては、株式市場の効率性という短期指標が交通企業評価という本来より長期の判断とどのように結びつくかどうかが明確でなく、また著者自身が認めるように計量分析上の問題も多い。しかし株式市場を分析するという発想の新鮮さは高く評価されるべきであり、今後の研究の継続に期待を寄せることのできる研究成果として、学会賞授賞文献として適格である。
論文名 「英国バス市場における入札制度と契約」
執筆者 田邉 勝巳 対象誌 『交通学研究』(2000年研究年報) 発行年 2001年3月
受賞理由  本論文は、英国乗合バスの非採算路線サービスに対する競争入札制度の2つの代表的方式である順費用入札と総費用入札の比較分析を、英国の約15年間の実績やこれをテーマとして1995年以降に発表された外国文献を中心として行い、さらにロンドンのフランチャイズ方式も分析に加えている。これまでの交通市場の規制緩和に関して、入札制度の紹介やその経済分析がほとんど見られなかった状況に鑑みて、本論文の貢献が認められる。論述は正確で緻密であり、経済理論との整合性も配慮されており、交通政策研究の論文として水準が高い。もっとも共通価値入札に関する説明が不十分であるなど、改善が必要な余地も残されているが、三方式の比較分析の内容は的確であり、現場への応用性が高く、今後我が国において導入が想定されるバスサービスの入札制度の検討に当たっての有効な資料となるであろうという意味で、学会賞授賞文献として適格である。

2000 著書 クルマ社会 アメリカの模索 西村 弘 大阪市立大学
著書 アメリカ物流改革の構造 斎藤 実 神奈川大学
論文 交通サービスの自発的供給は可能か? ― 理論的フレームワーク ― 湧口 清隆 一橋大学
論文 中核国際港湾整備の効果と今後の方向 岡本 直久 筑波大学
1999 著書 米国航空規制緩和をめぐる諸議論の展開 高橋 望 関西大学
1998 著書 道路投資の社会経済評価 中村 英夫 武蔵工業大学
1997 著書 私鉄運賃の研究−大都市私鉄の運賃改定1945-95年 森谷 英樹 敬愛大学
1996 著書 近代日本海運とアジア 片山 邦雄 大阪学院大学
著書 Japanese Urban Railways :A Private-Public Comparison 水谷 文俊 神戸大学
1995 著書 発展途上国交通経済論 土井 正幸 神戸商科大学
1994 著書 日本の国際物流システム 宮下 國生 神戸大学
1993 著書 近代日本交通労働史研究 武知 京三 近畿大学
1992 著書 交通市場政策の構造 斎藤 峻彦 近畿大学
1991 著書 交通の未来展望 角本 良平 運輸経済研究センター
著書 現代交通論
1990 著書 航空輸送 増井 健一 松坂大学
山内 弘隆 中京大学
著書 道路貨物運送政策の軌跡 谷利 亨 日通総合研究所
1989 論文 現代アメリカ鉄道研究序説 野田 秋雄 久留米大学
1988 著書 交通行動分析 近藤 勝直 流通科学大学
1987 著書 交通の計画と経営 武田 文夫 高速道路調査会
1986 著書 西ドイツ交通政策研究 杉山 雅洋 早稲田大学
1983 著書 貨物輸送の自動車化 −戦後過程の経済分析− 村尾 質 神奈川大学
1982 著書 海運業の設備投資行動 宮下 國生 神戸大学
1981 著書 アメリカ国民経済の生成と鉄道建設 生田 保夫 流通経済大学
著書 都市の経済分析 山田 浩之 京都大学
1980 著書 海上運賃の経済分析 下条 哲司 神戸大学
1978 著書 海運産業論 池田 知平 一橋大学
著書 輸送計画の研究 小林 清晃 甲南大学
1977 著書 海運経済論 織田 政夫 東京商船大学
1976 著書 帝政ロシア交通政策史 池田 博行 専修大学
論文 タウシツク = ピグー論争 伊勢田 穆 香川大学
1975 著書 海運論 東海林 滋 関西大学
論文 私鉄経営と運賃問題 山口 亮 運輸調査局
1974 著書 現代日本の交通政策 中西 健一 大阪市立大学
1973 著書 海陸複合輸送の研究 坂田 秀雄 山下新日本汽船
著書 鉄道運賃学説史 丸茂 新 関西学院大学
1972 著書 社会主義交論 平井 都士夫 大阪市立大学
論文 社会的費用の問題 中島 勇次 運輸調査局
1971 著書 地方公営企業の研究 蔵園 進 武蔵大学
著書 物資輸送量の計測と予測 鈴木 啓祐 流通経済大学
論文 中世後期地中海・北海海運企業史論究 松本 一郎 海事交通文化研究所
1970 著書 都市交通論 角本 良平 早稲田大学
論文 都市と交通と投資基準としての外部経済論 榊原 胖夫 同志社大学
1969 著書 現代日本の交通経済 佐波 宣平 京都大字
論文 道路サービスの価格形成と道路財源の問題 岡野 行秀 東京大学
1968 著書 交通労働の研究 佐竹 義昌 学習院大学

 

日本交通学会特別賞

本書は特にすぐれた研究労作として日本交通学会の研究水準と名声の高揚に貢献したので、本学会の特別賞とする。なお、当賞は日本交通学会賞特別賞ではありませんのでご注意ください。

2004 著書 『日本物流業のグローバル競争』 宮下 國生