【2024年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『総合交通体系論の系譜と展開』 | ||||
著 者 | 杉山 雅洋 | 発行者 | 流通経済大学出版会 | 発行年 | 2023年12月 |
受賞理由 |
1971年(昭和46年)の運輸政策審議会46答申が総合交通体系論・総合交通政策論の起点であるとする(検討の萌芽は10年さかのぼるが)と、当時の状況をリアルタイムで知る研究者はほとんどいない。後進の我々にとって指針となるのは岡野行秀(1995)「総合交通政策」(金本・山内編『交通』NTT出版、第10章)である。そこで、岡野は「国鉄の財政悪化に対応するために、国鉄を競争から保護するとともに、自動車重量税を取り込むことに目的があった」とし、「今日、「総合交通政策」は終焉を迎えた」と結論している。これを素直に受ければ、我々にとって総合交通政策は魅力的な研究対象ではない。 本書は、簡単には要約されない当時の政策論争の経緯を丹念に整理している。国鉄の財政問題は現に存在するとしても、高度経済成長時における交通インフラの(予測される)不足に対してどのように国家として対応するべきかが根本課題であった。現在の交通政策が国土交通省さらには各局に委ねられ細分化されていることと比較すると、国家課題として論争されていたことが明示され、それゆえマクロ経済モデルの構築に力が注がれたことも整理されている。当時の研究者にとっては常識であったであろうことが、我々の思考の外に置かれている。 2001年の省庁再編の影響もあり、それ以前の政策資料は審議会の答申であってもアクセスは容易ではない。本書で整理紹介されている資料の多くは公的な政策決定に関わったものにもかかわらず、散逸の恐れがある。 岡野は市場競争が前提となった時代背景から、総合交通政策が終焉したとしたが、複数の代替的交通機関が存在し、各交通インフラの整備が市場構造に影響を与える以上、総合交通体系論の背景にある課題は変わりなく存在する。現在の政策課題に対して本書の知見を活かすかどうかは我々現在の研究者に委ねられている。 過去の政策の策定過程およびそれに関連する議論を他者ではなし得ない形式で整理したこと、および後進の我々に示唆に富む材料を提供したことから、本書は学会賞に値する優れた著書である、と選考委員会は判断した。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「JRの輸送密度2,000人未満線区に関する考察:輸送需要と運営形態に関する検討」 | ||||
執筆者 | 那須野 育大 | 対象誌 | 『交通学研究』第67号 | 発行年 | 2024年3月 |
受賞理由 |
全国各地でローカル鉄道の存廃議論が進んでおり、ローカル鉄道の活性化政策が議論されている。本研究では、民鉄ではなく、JRが運営する輸送密度2,000人未満の123線区を対象とし、データ分析を行っている。具体的には、輸送密度を決定する要因を分析している。民鉄や第三セクター鉄道については、データ分析が蓄積されている一方、JRが運行するローカル線に関しては等閑視されていた点からも、意欲的な取り組みと言えよう。 輸送密度を被説明変数とする回帰分析の結果、列車本数、速度、観光ダミーが有意である一方、沿線人口、高齢化率、自動車保有台数は統計的に有意な結果は得られていない。輸送密度、より平たく言えば輸送量(需要量)に対して、沿線人口、高齢化率および自動車保有台数が影響していないとは考え難いが、そもそも輸送密度が2,000人未満の線区のみを扱っており、これらの説明力が有意でなかった説明変数の分散が小さいことの結果であると言えよう。 次に、事例分析として、4つの運営形態(①上下分離、②第3セクターへの移管、③BRTへの転換、④バスへの転換)による対応施策を整理している。 最後に、データ分析と事例分析を基礎として政策提言(利用者増加施策と国主導による運営形態の変更)を行っている。 モデル分析と事例分析の乖離、政策提案への飛躍が指摘できるが、実証研究にもとづく社会的課題の解決という本論文の一貫性は評価に値する。当該問題に対するファーストアプローチに取り組んだ点は高く評価したい。 以上のことから、本論文は学会賞に値するものである、と選考委員会は判断した。 |
【2023年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
該当なし | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「維持管理における近隣効果の分析:橋梁のメンテナンスデータを対象に」 | ||||
執筆者 | 中村 知誠 | 対象誌 | 『交通学研究』第66号 | 発行年 | 2023年3月 |
受賞理由 |
本論文は、インフラの質の維持に寄与する要因として橋梁を例として取り上げ、近隣自治体との相互関係(「近隣効果」)がインフラの健全性に及ぼす影響を分析したものである。 日本交通学会では分析の少ない橋梁を取り上げている点が興味深く、また自治体間競争という要素について分析するという点に新規性がある。「近隣効果」は、地方自治体が主体となって供給する財・サービスの在り方を考える上では、大変重要な視点であると考えられ、それを実証的に検証しようとしている意欲的な研究である。 その一方で、橋梁の維持管理問題としては理解できるものの、交通基盤施設としての橋梁の位置づけは記載がない点、なぜその「近隣効果」が発生するのかなどの質的な考察が少ない点に不満が残る。 しかし、本論文はそれらの問題点以上の学術的な意義の深い論文であることから、本論文は学会賞に値する優れた論文である、と選考委員会は判断した。 |
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論文名 | 「不採算バス路線に関する特別交付税措置の性質とその問題」 | ||||
執筆者 | 山本 卓登 | 対象誌 | 『運輸政策研究』Vol.25第81号 | 発行年 | 2023年2月 |
受賞理由 |
本論文は、2002年の補助金見直しによる不採算バスへの公的資金の投入に関して、その財源措置の是非について分析した論文である。 バスの財源を財政の観点から、報道や官庁へのヒアリングを通じて特別交付税措置の規模が大きいことを示したことは重要な発見と言える。制度の変遷、問題点が、文献調査、国の担当課への照会、官報、国会会議録から得られた情報を通じて詳細に明らかにされており、複雑な補助制度を理解するための資料としても貴重である。また、特別交付金の目的と算定方法の整合性について問題を指摘しており、これは政策設計に際して貴重な視点を提供している。 将来展望に関する考察が少ない点、定率補助金から定額補助金へという政策提言の部分は地方財政学の結論の単純な援用の域を出ず、今後の研究が必要という形で終わっている点などの問題点に不満が残るものの、本論文は学会賞に値する優れた論文であると選考委員会は判断した。 |
【2022年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
該当なし | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「鉄道駅開設による存在効果とその価値構成に関する分析~JR高崎問屋町駅を事例として~」 | ||||
執筆者 | 小熊 仁 | 対象誌 | 『運輸と経済』第81巻第10号 | 発行年 | 2021年10月 |
受賞理由 |
本論文は、2004年に請願駅として開業した高崎問屋町駅を分析対象とし、駅利用者と地区住民の存在効果とその価値構成を計測したものである。 従来定性的な指摘だけに留まっていることが多く、分析の難しい存在価値、そしてそれを構成する代位価値、遺贈価値などについて定量的な把握を試みた点が野心的であり、価値の種別の設定、WTPを導出する際の二段階二項方式の採用などWTPを正確に評価するための工夫がなされている。その論理構成も綿密に積み上げられており、結論に至るまでの経緯が明確である。またその定量的な分析の意義を政策的含意に結びつけている点についても抜かりなく行っている。 その反面、便益の集計は多少粗雑であり、利用者便益が混入して計測された可能性などが懸念されるが、本論文は時宜にあった研究であり、さらにその意義の深さからも本論文は学会賞に値する優れた論文であると選考委員会は判断した。 |
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論文名 | 「本邦LCCの参入は空港の効率性を高めたのか?-包絡分析法を用いた効率性・生産性評価-」 | ||||
執筆者 | 安達 晃史 | 対象誌 | 『運輸政策研究』Vol.23 | 発行年 | 2021年2月 |
受賞理由 |
本論文は、包絡分析法を用いてわが国の空港とLCCやインバウンドとの関係について定量的に分析する初めての試みとして、国管理空港の航空系事業と空港全体の活動に関する効率性・生産性分析を行ったものである。 本論文では、問題へのアプローチを単なるDEAの分析で終わらせることをせず、その他の分析手法も用いた丁寧な分析となっている。LCCが参入した前後や、参入あり・なし空港での効率性の差異の検証が丁寧に行われている。そして入手可能なデータを最大限精緻な手法で分析しようとする姿勢がうかがえる。その意味で分析結果も信頼できるとともに、地域独占性のある空港の効率性評価という重要な論点を扱っている。 分析手法の解説がやや冗長である点、自然実験のデータであるため検証の細部について解釈を留保すべき点などの問題点はあるものの、本論文は分析レベル、分析対象ともに学会賞に値する優れた論文であると選考委員会は判断した。 |
【2021年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『地域公共交通の統合的政策』 | ||||
著 者 | 宇都宮 浄人 | 発行者 | 東洋経済新報社 | 発行年 | 2020年10月 |
受賞理由 |
本書は、著者のオーストリアでの1年間にわたる調査の結果を踏まえ、高齢化や人口減少などの問題を抱えるわが国の公共交通と、同様の問題を抱える欧州の公共交通との比較検討を行い、地域公共交通政策への指針を与えようとするものである。 広範な文献調査により日欧の制度や政策展開を比較整理するとともに、地域公共交通の意義や政策効果の実証分析を行ったもので、その学術的貢献は大きい。また研究結果に基づく政策提言には説得力があるといえ、現実の状況をきちんと押さえた上で計量分析や事例分析を用いながら経済学的分析を行っており、その内容は非常に高い水準にある。各章で展開されるそれぞれの分析は興味深く読み応えがあり、地域公共交通に関心のある本学会の学会員のみならず、有益な研究成果をもたらしている。 本書の趣旨を透徹するためには仕方のないことかもしれないが、さらにもっと突っ込んだ実証的な分析とそこからの知見の整理が欲しかったという意見もある。しかし、それを考慮に入れてもなお、本書はこれまで一貫して地域公共交通の重要性と行政による支援を主張してきた著者がまとめた労作であるといえ、学会賞に値する優れた著作である、と選考委員会は判断した。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「年金基金の空港経営への参加が与える環境パフォーマンスへの影響」 | ||||
執筆者 | 中村 知誠 | 対象誌 | 『交通学研究』第64号 | 発行年 | 2021年3月 |
受賞理由 |
本論文は、年金基金という長期的運用の色彩の強いファンドが空港投資に参画することによる環境改善等のパフォーマンス変化を実証的に分析したものである。空港民営化の出資者の研究は多くなく、年金基金の運用先としての空港経営をとらえるという視点は斬新であり、この方面での貢献が大きい。またESG投資という視点からの問題設定も時宜にかなったものといえる。空港のカーボン認証はコロナ後に大きな問題となっており、その点で先駆的業績といってよく、今後の空港経営の参考となる社会に貢献しうる余地の大きい論文である。 分析の信頼性も十分である。さまざまなモデルあるいはシナリオを用いて結果を導き出しており、それらの数値の相互比較も興味深い。 以上のことから、本書は学会賞に値する優れた著作である、と選考委員会は判断した。 |
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論文名 | 「Carpooling and drivers without household vehicles: gender disparity in automobility among Hispanics and non-Hispanics in the U.S.」 | ||||
執筆者 | 松尾 美和 | 対象誌 | Transportation Volume47 No.4 | 発行年 | 2020年8月 |
受賞理由 |
米国では、人々の社会経済活動にとって自家用車による移動は重要な役割を担っている。本論文は、運転者として、および同乗者としての移動可能性が、性別や民族などによって実際にどう違うのかを分析したものである。 テーマ選定の面白さと、このような問題に実証的にアプローチするという試みに独自性がある。ヒスパニック移民女性にとって自動車利用の可能性が限定されており、このことが彼女らの職業選択肢を限定し低所得から脱け出せない原因になっている可能性が綿密な実証分析により明らかにされている。米国で大きな存在となりつつあるヒスパニック移民女性の貧困問題の重要な原因の一つを実証的に示したことは、学術的な貢献にとどまらず社会的にも意義の大きい成果と言える。 テーマ自体が直接日本の政策に寄与するのかという点や、わが国への示唆という点で弱いなどのいくつかの問題点が指摘されたが、これらの点に関しては今後の著者の力量に期待したい。 以上のことから、本書は学会賞に値する優れた著作である、と選考委員会は判断した。 |
【2020年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『日本の道路政策:経済学と政治学からの分析』 | ||||
著 者 | 太田 和博 | 発行者 | 東京大学出版会 | 発行年 | 2020年6月 |
受賞理由 |
経済発展や日常の生活に必要不可欠である道路インフラは、さまざまな方面に影響を及ぼすものとなっているだけに利害関係も複雑で、適切な道路の整備、維持、運営のための政策を行うことは非常に難しい。本書は、「なぜ道路政策は歪むのかを経済学と政治学の観点から解明する」ことを目的としている。本書は、高速道路と一般道路の両分野にわたって自動車関係諸税、道路特定財源の問題にも言及しながら経済学と政治学(公共選択論)の立場から分析を行う。そしてその結果、政策対象の大衆化が合理的な政策決定及びその遂行の障害となることを導き出している。 本書は、日本の道路政策の決定過程について多くの資料を丹念に分析しており、著者のこれまでの研究の集大成としてかなり読み応えのある重厚な労作である。たとえば、わが国の道路行政の基本となる道路財源に関する制度・政策が膨大な文献から整理され、また21世紀初頭の道路公団民営化と道路特定財源の一般財源化について、資産評価、減価償却の算定といった当時の論争などが丁寧に追われている。 これらの複雑な政策決定の過程について、政治学と経済学の両者の観点から道路政策を論じた点はかなりユニークであり、このような研究をなしえる研究者は日本にはほとんどない点も評価できる。著者は現実の道路政策にも審議会などを通じて参画しており、そうした政策形成にもかかわっていた著者でなければ執筆することができない深い洞察が加えられている。戦後から近年に至る日本の道路政策の現実が客観性を踏まえて包括的に分析されている本書は学会賞に値する優れた著作である、と選考委員会は判断した。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「普通列車のグリーン車需要の価格弾力性の推定-Regression discontinuity designに基づいて-」 | ||||
執筆者 | 松本 涼佑 | 対象誌 | 『交通学研究』第63号 | 発行年 | 2020年3月 |
受賞理由 |
近年、中距離鉄道路線では、平日に朝の通勤時間帯でも普通車中心の編成にグリーン車を組み込むことが多く行われている。こうした状況下において、筆者はグリーン車利用料金の変化が需要に与える影響をRDD(Regression discontinuity design)の手法を用いることによって解明しようとした。具体的にはRDDの手法を用いて平日朝の通勤時のグリーン車に対する需要の価格弾力性を推定している。その結果、需要の価格弾力性は有意に1を超えていることが示された。 グリーン車における需要の価格弾力性というトピックは興味深い内容であり、本論文は現在の社会的要請に対する具体的な知見を提供している。問題設定が通勤用電車のグリーン料金のみであって若干限定的ではあるものの、グリーン料金の非連続性に着目して、RDDを応用するというアイデアには新規性があり、計量分析も注意深く行われている。 以上のような現実的な問題設定とそのアプローチの新規性、RDDというモデルの採用とその工夫の点などを中心として評価できる点が多く、本論文は学会賞に値するものと選考委員会は判断した。 |
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論文名 | 「アメリカ航空輸送産業におけるジョイントベンチャーと費用効率性の関係」 | ||||
執筆者 | 矢田部 亨 | 対象誌 | 『交通学研究』第63号 | 発行年 | 2020年3月 |
受賞理由 |
これまでの航空輸送市場において主流であった、航空輸送事業者単体あるいはアライアンスの形成に加え、近年では特定の路線における協力体制を形成する業態であるジョイントベンチャー(JV)が形成されつつある。本論文は、このJVが競争圧力の低下を招くものであるかどうかについて費用関数を用いて分析している。分析の結果、JVが航空輸送事業者の費用効率性を損ない、競争圧力の低下を招来する可能性があることが検証された。 本論文は、航空のJVに関して理論的整理を行うとともに、費用関数を推計して、実証的なデータに基づく費用効率性を議論している点で新規性があるといえる。また、今回の審査に直接は影響しないが、昨年も同様の分野で論文を発表し業績を上げているなど、学会に対する貢献は大であると考えられる。 ただ、筆者も認識しているように、どこまでがアライアンスの深化の効果でどこまでがJVの効果かが切り分けしにくいという点、そしてJVの多様性を考えると、アライアンスとJVの関係について総合的にしか判断できないという実務的な方面からの認識もあり、これらの点での分析に問題が残る。しかし、これらの点は今後の筆者の研究課題としてとらえることとし、それを上回る意義が認められる本論文は学会賞に値するものと選考委員会は判断した。 |
【2019年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
該当なし | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「Transportation policy for high-speed rail competing with airlines」 | ||||
執筆者 | 角田 侑史 | 対象誌 | Transportation Research Part A: Policy and Practice, Vol. 116 | 発行年 | 2018年10月 |
受賞理由 |
本論文は,規制緩和された航空輸送と政府の関与下にある高速鉄道の間で競争が起きているという状況において,政府はいかに行動すべきかを,ゲーム理論に基づくモデルを構築して分析したものである。 そのうえで,高速鉄道運営者は政府の規制により利益と社会厚生の加重合計を最大化する一方で,航空会社は自身の利益を最大化すると仮定し,これを,第一段階では政府が社会厚生を最大化するために重みを設定し,第二段階では高速鉄道運営者と航空会社がそれぞれの目的関数を最大化するという,2段階ゲームとして分析している。 そして,高速鉄道を使用することによる消費者への便益が,航空輸送を使用することの便益と比較して,十分に大きいまたは十分に小さい場合を除いて,政府による部分的な規制がサブゲーム完全均衡として生じることを示し,例えば高速鉄道整備などで政府が関与することへの理論的基礎を提供している。 国際的に評価の高いジャーナルに掲載されていることを含めた対外的発信性、新規性に富むテーマであることが評価される。モード間交通調整が必要な場合の規制がテーマとすると、表題および本文でのtransportation policyの表現が大まかすぎること、そもそも前提となる仮定が強すぎること、論文構成として同じ表現の繰り返しが多すぎるなどの問題も散見されるものの、総合的に日本交通学会賞に相応しい著作であると認め、選考委員会として選定するものである。 |
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論文名 | 「航空会社の市場支配力と費用の非対称性に関する分析」 | ||||
執筆者 | 山本 涼平 | 対象誌 | 『交通学研究』第62号 | 発行年 | 2019年3月 |
受賞理由 |
本論文は、米国の国内線航空の2015年のデータから、マークアップ、すなわち価格と限界費用の差で測った市場支配力に影響する要因を分析したものである。そして、HHI(Herfindahl-Hirschman Index)でみた市場集中度が、市場支配力に正の影響を持つことを示した。この点では先行研究と同じであるが、本論文はさらに論理展開を行って、その相関が企業ごとの費用水準の散らばり具合によることを実証的に示している。つまり、HHIは構成する企業の属性を反映しないものであるが、本研究では費用水準の散らばりという属性を考慮していることに新規性がある。 企業の費用水準の散らばりが相互作用を持ち、市場集中度の高いとき、費用水準に差がある企業から競争を挑まれても競争圧力が弱いが、費用水準の近いライバルとの競争は競争圧力となるとの知見を導いている。 全体として、テーマの新規性、理論モデルと計量分析のバランスのよさ、市場実態を反映した理論・実証研究であること、とくに需要関数についても精緻なアプローチがなされていること、そのうえで政策的知見への方向付けが行われていることが評価される。以上から、日本交通学会賞に相応しい著作であると認め、選考委員会として選定するものである。 |
【2018年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『総合研究 日本のタクシー産業;現状と改革に向けての分析』 | ||||
著 者 | 太田 和博 青木 亮 後藤 孝夫(編著) |
発行者 | 慶應義塾大学出版会 | 発行年 | 2017年7月 |
受賞理由 |
本書は、わが国において営業収入が2兆円弱に達し、法人事業者だけでその数が1万5000社にもなりながら、学界の内外でまとまった研究が少なかったタクシー産業を扱った研究書である。編者3名を含めた経済学ベースの研究者を中心に、工学系、法学系を含めた11人の研究者による共同研究の成果である。 実態把握編、現状分析編、政策分析編、政策提言編の4部構成になっており、いわゆる制度、理論、政策の3点セットに加え、さらに政策のその先までを指し示すという意欲的な構成になっている。タクシーという既往研究や資料の少ない分野を対象にして、このような学術的総括を行うことには、大変な準備作業や執筆者間調整が必要であったであろうことが想像される。 具体的内容として、第Ⅰ部「現状把握編」では、軽貨物タクシー、運転代行などの周辺サービスをも含めた史的経緯、東京、他都市、地方部で大きく異なる市場の状況、さらに3箇所(ニューヨーク、スウェーデン、タイ)の海外事例が紹介されている。 第Ⅱ部「現状分析編」では、タクシーサービスの需要面での特徴、ならびに労働問題、法人・個人両タクシーの別を含めた供給面での特徴について解説されている。 第Ⅲ部「政策分析編」では、自由化と統制の間で揺れ動き、きわめて複雑化している規制政策の政策過程、ならびに新たなサービスを含めた事業区分について論述される。さらに、東京での初乗400円化を含めた運賃問題、台数規制の是非と可否、安全性、ICT進展の影響とライドシェア問題と、最近のタクシーをめぐって注目を集めている様々な問題についてもれなく論述されている。 第Ⅳ部「政策提言編」では、タクシー規制の公共選択的側面、地域主権の必要について、著者らの独特の見解が述べられている。 タクシーに関する研究自体の希少性、ならびに展開されている論述の包括性、とりわけ政策過程、あるいは公共選択論的な観点をも導入していることが極めて大きく評価される。 その一方で、第Ⅳ部の「政策提言編」に記述される地域主導の必要などの政策勧告が、第Ⅰ部から第Ⅲ部までの本文のどの部分から導かれているのかの対応関係がわかりにくいという問題がある。とくに、地域主権を強く主張するならば、国の政策主導の中にあっても、国内各地で契約サービス等をめぐって様々な形で展開されている市町村とタクシー会社の関係の実態、あるいは日本とより比較可能な海外での分権化の事例について論じてほしかった。 また、規制主体を誰にすべきかの議論にかなりの紙幅を割き、まとまった提言を行いながら、規制緩和を含めたあるべき規制の中身についての説明が不足している印象も受けた。台数統制は可能でなく、運賃のみを規制する方向を求めていると読めるが、これは通常の公益事業規制と異なるうえ、一般的な道路系地域公共交通での規制と自由化の中間での議論とは反対のように解釈される。この点についても一層精緻な解説が欲しい。 しかしながら、それらの問題点を相殺してなお余りある新規性を備えた意欲的な研究であることから、本書を日本交通学会賞の対象著作に相応しいものと認め、選考委員会として選定するものである。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「ドイツの地域鉄道政策における「生存配慮」概念の意義」 | ||||
執筆者 | 土方 まりこ | 対象誌 | 『交通学研究』第61号 | 発行年 | 2018年3月 |
受賞理由 |
本論文はドイツの地域鉄道政策において重視されながら、これまで日本であまり取り上げられてこなかった「生存配慮(Daseinsvorsorge)」の概念について、1930年代の文献や議論にまで遡って解明したものである。当該概念について、時代によって相違する位置付けがなされてはいるものの、州と連邦が地域鉄道政策に関与する根拠として一貫して機能してきたと結論付けている。 論文によれば、この「生存配慮」概念は、自給自足によってではなしに配当されなくてはならず、その充足のための行為が広義の国家の責任となるもので、水道、ガス、電気、郵便、電信、電話、保健衛生上の保護等と並ぶものとして交通機関の供給が含まれるものである。また、ドイツ国鉄改革時の立法により、現在では、地下鉄、LRT、バス等も対象に含まれる。著者も述べているように、これらの概念を正確に理解することは、昨今、各地で鉄道の存続が社会問題になっている日本にとっても大きな意義がある。 扱われているテーマ自体が、わが国で体系的に論じられてこなかったものであること、ならびに時間と範囲の両面で豊富な文献調査に基づいていることの2点が大きく評価される。 なお、本論文について所見を述べれば、第一に、「生存配慮」が機能し、実際の地域鉄道政策に影響してきたという主張自体は説得的であるものの、地域交通政策のどの側面に対してどのように機能してきたかの具体的説明に至っていないという問題がある。一般的に最初に想定される公的財源充当に対してはそれほど影響していないと述べられているだけに、なおさらどの側面にどのようにという説明が必要と思われる。 第二に、フランスにおける対応する概念と相違点があり、またEUでの議論がドイツに影響したとの記述があるが、この相違点や影響の中身についての具体的な説明が不足している印象を持つ。呼称はともかくとして国際的に共通するテーマであるだけに、EUの不採算サービス維持政策の枠組み(公共サービス義務、公共サービス契約)との関係等について一定の説明がほしかった。 以上の問題はあるものの、新規性にあふれる意欲的で精緻な研究である本論文を日本交通学会賞に相応しい著作であると認め、選考委員会として選定するものである。 |
【2017年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『競争促進のためのインセンティブ設計-ヤードスティック規制と入札制度の理論と実証-』 | ||||
著 者 | 原田 峻平 | 発行者 | 勁草書房 | 発行年 | 2016年8月 |
受賞理由 |
本書は、交通市場など従来強い公的規制が課せられていた市場の規制改革後の状況をサーベイした上で、事業者に効率的な事業運営を促すために用いられるインセンティブ規制に関して理論と実証の両面から政策評価と提言を行うものである。主として取り上げられているのは、各事業者の費用などを比較して間接的に競争させるヤードスティック規制と、市場での運営権を獲得する事業者を入札によって決定することで事前の競争を行わせる入札制度である。 本書は理論分析のパートと実証分析のパートに分けられる。 理論分析パートでは、ヤードスティック規制とフランチャイズ入札について、ゲーム論を用いた分析がなされる。その結果、事業者の行動が政策当局に分からないという「隠された行動」が問題となる市場では、両規制方式とも有効に機能する可能性があるが、事業者の情報が分からないという「隠された情報」が問題となる市場では、ヤードスティック規制は事業者間の共謀が成立し有効に機能しない可能性があることが示唆され、入札制度の優位性が指摘されている。この結果から、著者は、政策の選択には事業者と政策当局との間の情報格差の要因を特定する必要があることが示されたとしている。 実証分析パートでは、ヤードスティック規制の代表例である都市鉄道のデータを用いた費用関数の推計と、入札制度の中で比較的データ制約の緩やかなPFI事業のデータを用いた入札結果と競争性の関係に関する推計が行われている。まず、都市鉄道については、ヤードスティック規制が課されているグループの費用水準が、課されていないグループの費用水準よりも有意に低いことが示され、規制が有効に機能していると主張する。PFI事業の分析では、入札に参加する事業者数が増えると落札価格が低下することを示され、入札を通じた競争が有効に機能していることが実証されている。 本書について第1に評価される点は、理論的分析、実証的分析ともに非常に高いレベルの分析が行われているだけでなく、実証分析は理論分析を基礎として成り立っており、その意味での整合性がとられていることである。これは、問題の本質を多方面から見極めようとする筆者の研究態度の現れであり、分析上の蓄積と技量の高さを示すものである。 第2に、各章の分析は、それぞれが十分な研究上の功績を有しており、総体としてインセンティブ規制に関する大きな研究業績となっている。特に、第3章のゲーム理論からの両規制方式に関する比較は学術的に高いレベルのものであり、補論となっているがモデルの動学化への試みは大きな可能性示している。 第6章入札制度の実証的評価では、PFIという相対的に新しい事業手法が取り上げられており、VFMという形での社会的利益が競争の結果としてどう発現しているかが分析されている。この実証分析では、競争の多数性と市場成果の因果関係が十分に制御された形で分析されており、研究の綿密さが際立っている。 一方、理論分析では前提となる条件設定において、現実との対比で若干違和感を覚える仮定が見られないわけではない点、実証分析では、取り込むことによってさらに分析が深まると期待される変数がデータ上の制約から反映されていない点などの限界がある。また、選考委員から、本書第6章の結論部分は、全体の要約にとどまっており、得られた知見からインセンティブ規制に関する真の方向性、秩序を示すものになっていないとの指摘があった。 以上のような限界点の指摘はあるものの、これらは若い筆者がさらに研鑽を積むことによって十分に解消可能であると考え、学会賞選考委員一同は、原田峻平氏の著書が日本交通学会賞に値するものと判断した。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「The impact of aviation fuel tax on fuel consumption and carbon emissions: The case of the US airline industry」 | ||||
執筆者 | Hideki Fukui and Chikage Miyoshi | 対象誌 | Transportation Research Part D: Transport and Environment | 発行年 | 2017年 |
受賞理由 |
本論文は、航空燃料税が燃料消費と二酸化炭素排出量の削減をどの程度促すかを明らかにしたものである。 筆者らは、1995年から2013年の米国航空会社年次パネル・データを用いた同時分位点回帰モデル(quantile regression estimate;消費量に応じて分位を設けて回帰分析を行う)により、航空会社の燃料消費規模ごとに燃料消費の価格弾力性を推定し、短期(1年後)の弾力性は全ての燃料消費分位点において統計的に有意で、-0.350から-0.166であるとしている。これに対して、長期(3年後)の弾力性は、0.1、0.2、0.3、そして0.5の燃料消費分位点においてのみ統計的に有意であり、その値は-0.346から-0.166であるとしている。 筆者らは、これらの推定結果から、航空燃料税は燃料消費抑制効果を持ちうるものの、長期的には燃料消費リバウンド効果により相殺されうること、また、燃料税増税はより規模の小さな航空会社にとってより大きな負担となり得ることが示唆されるとしている。2012年のデータで、米国における過去最大の航空燃料増税の値(4.3セント/ガロン)を用いて計算したところ、短期(1年後)の二酸化炭素削減効果は-0.14から-0.18%であった。しかし、長期(3年後)の効果は、リバウンド効果の結果、僅か-0.008から-0.01%であることが明らかとなった。 福井等論文は、データ自体の収集と分析に多大な労力が注がれている。評価としては航空機について燃料税が燃料消費に及ぼす影響を分析している点で希少性の価値がある。また、同時分位回帰モデルを用いて航空会社規模ごとの分析を行っている点についても主たる貢献として認められる。 一方、筆者等が用いた燃料消費量モデルは、その変数の設定について、恣意性が残ると指摘できる(モデルの基本になる構造方程式が明らかにならない)。また、推定結果と政策上の示唆において、若干の論理的飛びがある。 しかしながら、本論文の貢献はこれらの問題点を相殺するに余りあると考え、選考委員一同は本論文を日本交通学会賞に値するものと判断する。 |
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論文名 | 「鉄道の通勤混雑緩和対策の経済分析」 | ||||
執筆者 | 松本 涼佑 | 対象誌 | 交通学研究 | 発行年 | 2017年3月 |
受賞理由 |
本論文は、混雑の度合いによって料金が変動する混雑料金制について、東京の通勤鉄道を対象に最適な混雑料金の値を導出し、通勤定期運賃との乖離幅を定量化することによって、現行の通勤定期運賃体系の課題を明確化することを目的とするものである。 わが国における先行研究は、鉄道混雑の度合いが沿線の家賃に反映されているとし、ヘドニックアプローチを利用したものが多く、海外での先行研究は、被験者に対して複数の列車について、混雑度合いや所要時間を提示し、どちらを利用するかの回答を得るStated preferenceを利用したものが多い。しかし、前者は通勤者の行動を定式化していないという点で、後者は被験者が実際に混雑を経験していないという点で、間接的なアプローチであるといえる。 これに対し本論文は、大都市交通センサスの個票データを使用し、各通勤者が混雑した時刻を避けて出社する行動を、通勤者属性を加味したConditionalロジットモデルを用いて定式化するという、直接的なアプローチをとっており、この点が評価に値する。また、各通勤者の理想的な出社時刻と実際の出社時刻の差分に時間価値を乗じた項を組み込むことによって、最適混雑料金の値を定量化することに成功している。 本論文については、筆者自身が本文で述べているように、通勤者の理想的な出社時刻を平均的な値に固定している点、分析に当たって時間価値が外生的に与えられている点等の限界が指摘できる。このような限界はあるものの、本論文の分析はそれを相殺して余りあるものであることから、学会賞選考委員一同は、松本涼佑氏の著書が日本交通学会賞に値するものと判断した。 |
【2016年度】 | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「オープンスカイ協定とネットワーク形成モデル」 | ||||
執筆者 | 米崎 克彦 | 対象誌 | 『交通学研究』第59巻 | 発行年 | 2016年3月 |
受賞理由 |
本論文は、国際航空における自由化について、国家間のオープンスカイ協定が結ばれ、それよって全世界的な自由化がもたらされるか否か、理論的な立場からその条件を明確にし分析するものである。
用いられている分析手法はゲーム理論のネットワーク形成モデルである。同モデルは、自由貿易協定のように、国家間の交渉によって成立する経済体制のプロセス分析等に用いられるが、筆者はこれを国際航空の分野に適用し、先行研究の限界と限定点を拡張、解放することに成功している。 筆者は、結論的に、安定的なオープンスカイネットワーク構造が形成される条件を提示する。それを政策論的に解釈すれば、「ある国家はネットワーク拡大効果が、市場が競争的になることによる負の効果を上回るならばオープンスカイ協定を結ぶことを選択する」ということになる。ただし、ネットワーク拡大の効果は、国際航空市場におけるネットワーク特性を考慮すると、ある種収穫逓減的な性格を有することから、前者が後者を上回り、全世界的なオープンスカイネットワークが形成される可能性は小さいとの系(コロラリー)が示されている。 本論が学会賞に値する第1の理由は、この種の分析が日本交通学会においては希少であり、先行研究のモデルを土台にするものではあるが、新しい知見と結論が得られている点にある。通常、理論モデルを構築して分析するためには、不要な事象を捨象し、市場の本質を簡潔に表現しているかが問題となるが、筆者はこの作業に成功している。 第2に、ゲーム理論におけるネットワーク形成モデルという方法論を採用したこと、国家間協定を通じてのオープンスカイネットワークの形成という現象を取り上げたこと自体にも本論文の価値がある。交通現象を社会科学的な視点から行うという等学会において、本論文は、新しい研究手法、研究分野の提示という点での意味を持っている。 理論的な観点からすれば、ゲーム理論におけるネットワーク形成モデルの多くと同様、分析は静学的な条件の提示にとどまり、動学的、あるいは動態的な変化の分析に及んでいないという限界がある。また、論文全体に、文章表現に粗削りな点が見られるなどの形式的な問題がある。 本論文は、そのような問題を考慮したとしても、前述のような学会への貢献は充分に大きいものであることから、審査員一同は学会賞に値するものと判断した。 |
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論文名 | 「Business connectivity, air transport and the urban hierarchy: A case study in East Asia」 | ||||
執筆者 | 松本 秀暢 堂前 光司 |
対象誌 | Journal of Transport Geography Volume 54, pp. 132-139. | 発行年 | 2016年6月 |
受賞理由 |
本論文は、都市と都市との間のビジネス上のコネクションがそれらの都市間の国際航空旅客数に与える影響、さらには地域の都市の階層性に与える影響を考察するものである。分析対象は、東アジアの17都市である。 本論文において、都市間のビジネス上のコネクションは、事業所サービス業(金融、銀行、会計、保険、法律コンサルティング等)の繋がりによって測られ、都市は、事業所の数と重要度によってスコア化されランク付けされる。 分析は、都市ごとの1人当たりGDP、人口、ビジネス・コネクション、都市間距離、都市間ダミーを説明変数として都市間国際航空旅客数を説明するというモデルを用い、推定は重回帰分析によって行われている。モデルの構造として、都市間ダミーを適切に用いることによってハブ機能の強さを示すよう工夫されている。さらに、年次を区切った推定によって、ダイナミックな変化が描き出されている。 分析の結果筆者等は、ビジネス・コネクションは、航空輸送量および都市のランクに多大な影響を及ぼすこと、その傾向は年代の経過とともに強まると結論している。 本論文の貢献は、ビジネス・コネクションという経済活動に着目し、経済発展が進む東アジアの主要都市における航空輸送、都市の動態的変化の要因を説明したことにある。また、統計データが不十分な中で、このような作業が行われた点も評価されるべきである。 一方、その裏返しとして、LCCの輸送量がデータとして十分に反映され得なかったこと、筆者等が指摘しているように国内線輸送との関係が考慮されていないことなどの限界があるが、上記の貢献度を考慮して審査委員一同は、交通学会賞に相応しいものと判断した。 |
【2015年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『道路政策の経済分析』 | ||||
著 者 | 後藤 孝夫 | 発行者 | 同文舘出版 | 発行年 | 2015年3月 |
受賞理由 |
本書は、わが国の道路政策のあり方について、経済学の観点から、費用負担問題と市場メカニズム導入の有効性について論じたものである。内容的には、自動車関係諸税の地域間配分の実態やその決定要因の分析、地方公共団体への政府間補助の分析や制度的問題、路上駐車に対する課金の分析、道路の維持や管理の費用負担の分析、道路事業における民間資金活用など、多岐にわたる問題が取り上げられている。 道路政策について論じる著作は、定性的なものが多いが、本書の特徴は、豊富な実証分析によって政策分析が裏打ちされている点にある。現実のデータ分析によって、道路政策の評価がより現実的なものとなっており、政策論と実証分析のバランスも良く保たれている。また、専門性と分かりやすさという点でも優れており、学会のみならず政策論としての社会的インパクトを持つものと考えられる。 本書は、過去の著者の諸論文を集大成したものであるために、章の構成上、ところどころでちぐはぐな点も見られるが、本書の分析内容、研究上の貢献からすれば、許容されるものであると思われる。 以上より、学会賞審査委員会は、本書を2015年度日本交通学会賞著作の部受賞作とする。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「日本の私鉄企業における多角化戦略の影響と効率性に関する考察」 | ||||
執筆者 | 宋 娟貞 | 対象誌 | 『交通学研究』第58巻 | 発行年 | 2015年3月 |
受賞理由 | 本研究は、日本の私鉄の多角化戦略が効率性に及ぼす影響を分析したものである。筆者は、多角化戦略を展開している私鉄の財務データを用いて確率フロンティア分析を行い、技術的効率性を推定、効率性の大きさによって、効率の程度を判断する。結論は、多角化の程度は交通事業にプラスの効果を与えているというものである。確率フロンティア分析という先端的な分析手法を、多角化戦略というデータ入手が限られた状況の中で適用し、ある程度有益な結果を得ており、新規性という点で評価できる。また、本論文は、先行研究の整理をはじめとして論文としての体裁がしっかりと整っており、分析内容もさることながら、その結論が極めて明確に提示されている点が評価できる。以上より、学会賞審査委員会は、本論文が、日本交通学会賞論文の部の対象として相応しいものと判断する。 | ||||
論文名 | 「道路に関連する投資配分の変更がマクロ経済に与える影響」 | ||||
執筆者 | 高橋 達 | 対象誌 | 『交通学研究』第58巻 | 発行年 | 2015年3月 |
受賞理由 | 本論文は、道路インフラの維持管理について、マクロ経済モデルに依拠した形でモデルを構築し、経済に与える影響を検討したものである。具体的には、分析モデルを構築してシミュレーションを行い、維持管理費の支出割合や税率の変化が与える影響の分析している。全体的にモデルとデータに関し説明不足であり、政策検討につなげるにはさらなる発展が必要であるが、本研究のアプローチの新規性は高く、その点を評価し学会賞に相応しいものと判断する。 |
【2014年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『交通の時間価値の理論と実際』 | ||||
著 者 | 加藤 浩徳(編著) | 発行者 | 技報堂出版 | 発行年 | 2013年7月 |
受賞理由 |
本書は、時間価値計測という、交通プロジェクト評価において欠かすことのできない重要な問題について、先行研究の紹介、時間価値の推定、実証分析などをまとめたものであり、これまで散発的に各分野の研究者が行ってきた時間価値に関する研究を集大成した労作である。内容は、編者の長年の研究が積み重ねられてきたものであるが、特に海外の事例をサーベイに用いた文献は膨大であり、国際比較部分も読み応えがある。また、貨物交通の時間価値など未整理の課題に言及されている点も見逃せない。 以上より、審査委員一同は、本書が日本交通学会賞に値する著作であると判断した。 |
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著書名 | 『持続可能な交通への経済的アプローチ』 | ||||
著 者 | 兒山 真也 | 発行者 | 日本評論社 | 発行年 | 2014年3月 |
受賞理由 |
本書は、自動車交通の社会的費用の推定や交通事故傷害の経済評価等、著者が長年にわたって取り組んできたテーマについて、持続可能性(sustainability)をキー・コンセプトとして集大成した労作である。第1章で行われている持続可能性の概念規定の後、著者は、現実の交通問題に経済学的なアプローチがどれほど有効かを検証している。経済理論に基づいた実証分析や実際の事例についても政策分析をバランスよく行うなど、説得力に富む内容になっている。 以上より、審査委員一同は、本書が日本交通学会賞に値する著作であると判断した。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「ソフトな予算制約問題と第三セクターのパフォーマンス-運輸分野を対象とした実証分析-」 | ||||
執筆者 | 松本 守 後藤 孝夫 |
対象誌 | 『交通学研究』第57巻 | 発行年 | 2014年3月 |
受賞理由 |
本研究は、第三セクターの交通事業者を対象にして、補助金交付や損失保証契約などの「ソフトな予算制約」が、事業者のパフォーマンスに影響を与えるかどうかを計量経済学の手法を用いて分析したものである。問題設定自体は必ずしも新しいものではないが、第三セクターの経営改革が求められている現状に照らせば、時宜に適った分析であるといえる。分析内容については、モデルに含まれる変数間の関係性を明確化すべきである等の意見も見られたが、これらは、著者等の今後の研究において克服されるべき問題と考えられる。 以上より、審査委員一同は、本書が日本交通学会賞に値する論文であると判断した。 |
【2013年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『通信と交通のユニバーサルサービス』 | ||||
著 者 | 寺田 一薫 中村 彰宏 |
発行者 | 勁草書房 | 発行年 | 2013年3月 |
受賞理由 |
再分配の議論は交通・通信分野において中心となる重要な課題であるが、本書は、通信・交通産業を対象に、「公正の概念」、「内部補助問題」等ユニバーサルサービスに関係する理論的枠組みを整理した上で、電話、郵便、バス等、具体的にユニバーサルサービスが問題となる分野について、計量的な実証分析を含めて、現実に即した分析を行い、それに基づいた政策提言を行っている。すなわち、政策論にとって必要な理論の構築、現状の実証的分析、政策含意が総合的に論じられている点が評価される。この種の問題は、個別具体的な事例に即して分析されるケースが多いが、著者等は、上述の総合的な分析によって本概念の体系化を目指していると考えられ、その意欲の点でも重要な研究である。また、ユニバーサルサービスの確保に関する支払い意思額の測定といった挑戦的な試みも、きわめて興味深い。 理論的な分析と政策提言には学者らしい慎重さがみられるが、それが一方で物足りなさを感じさせるのと、著者二人の議論の融合性が不十分であるため、交通分野から見れば通信分野での議論が(あるいは通信分野から見れば交通分野での議論が)どのように活かせるのか、明示的でない点に不満は残るが、それらの点を考慮しても、この研究が前述のとおりの理由により、学会賞のレヴェルに十分達していることは疑いがない。よって本書に2013年度交通学会賞(著書)を授与する。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「米国航空産業における合併効果と低費用航空会社の運賃設定行動-デルタ航空・ノースウエスト航空のケース-」 | ||||
執筆者 | 朝日 亮太 | 対象誌 | 『運輸政策研究』15巻4号 | 発行年 | 2013年3月 |
受賞理由 | 本論文は、標記航空会社の合併ケースをとりあげて、合併の効果が運賃に及ぼす影響を計量実証的に分析し、合併により集中度を高めた方がかえって競争的価格形成が導かれることを示している。合併が運賃等に与える影響についての分析は、LCC が本格展開した後の時期におけるケースは先行研究が少なく、その意義は大きい。扱うケースが1件であるため、結果の解釈が難しく、一般的な傾向を示すのか否かという疑問は残るものの、分析には膨大なデータが扱われており、計量分析の手法に関しても工夫が図られていること、かつ、一定の政策含意も示されていることから、交通学会賞に相応しい論文の水準とみなし得る。よって本論文に2013年度交通学会賞(論文)を授与する。 | ||||
論文名 | 「民営化が高速道路運営に与えた影響-DEAによる分析-」 | ||||
執筆者 | 木村 真樹 赤井 伸郎 倉本 宣史 |
対象誌 | 『交通学研究』第56号 | 発行年 | 2013年3月 |
受賞理由 | 本論文は、道路公団の民営化が高速道路運営に与えた影響について、DEAによる効率変化分析を行い、民営化が生産効率の改善をもたらしたことを示したものである。高速道路の整備運営は、運営部分の民営化の際に運営と整備が切り離されて制度が変わったため、民営化前後の業績比較は容易ではないが、本論文では、民営化前後の財務データを工夫して加工することによって、前後の業績比較を可能にして民営化の効果を検証しており、その点が大きな特徴かつ政策上・学術上の貢献といえる。この計測結果を運営部分の民営化の効果とみるかどうかは異論もあるだろうが、高速道路の運営業績を対象にした先行研究(特に計量実証分析)が少なく、かつ、データ入手が限られている中で、学会賞に値する一定以上の努力と工夫がなされている論文と考える。よって本論文に2013年度交通学会賞(論文)を授与する。 |
【2012年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『日本経済のロジスティクス革新力』 | ||||
著 者 | 宮下 國生 | 発行者 | 千倉書房 | 発行年 | 2011年2月 |
受賞理由 | 本書は、物流・ロジスティクスを実証的に分析することによって、経済全体の潮流を把握しようとする、著者の生涯研究の一環を成す書である。本書の大きな特徴は、ロジスティクス革新力の観点から、グローバルに展開される競争を実証的に解明したところにある。日米製造業におけるロジスティクス革新力を比較した第Ⅰ編、ロジスティクスの観点から日本経済の構造転換を分析し、アジア経済におけるその位置づけを解明した第Ⅱ編、物流インフラと市場インフラの機能を分析した第Ⅲ編は、いずれも貴重な示唆に富み,分析の完成度も高く、学会賞として十分な学術的水準を有すると判断される。よって、本書に2012年度学会賞を授与する。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「大都市高速鉄道の費用構造に関する分析」 | ||||
執筆者 | 原田 峻平 | 対象誌 | 『交通学研究』(2011年研究年報) | 発行年 | 2012年3月 |
受賞理由 | 大都市圏の鉄道は、大手・中小の2グループに分けた政策対応がなされている。本論文は、そのような現行の2分類法の是非を、大都市圏における鉄道事業者の費用関数を計量経済学的に推定することによって論じようと試みたものである。費用関数の推定だけでなく、規模の経済性,密度の経済性等についても、両グループの差異を分析し、2グループに分ける必要性を再確認している。分析過程や政策インプリケーションの点で、十分とはいえない部分もみられるが、オーソドックスな課題を最新の研究成果を利用して正確に分析しており、学会賞としての一定の水準に達した論文であること、また、著者が現在まだ研究生活の入り口にあるに過ぎず、その将来性に十分期待し得ることを考慮して、学会賞を得るにふさわしい業績であると判断した。よって、本論文に2012年度学会賞を授与する。 |
【2011年度】 | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | The effect of governmental subsidies and the contractual model on the publicly-owned bus sector in Japan | ||||
執筆者 | 酒井 裕規 正司 健一 |
対象誌 | Research in Transportation Economics | 発行年 | 2010年 |
受賞理由 | 本論文は、日本の公営バスを中心とした乗合バス事業を対象に、補助金と業務委託(営業所の管理委託)に焦点を当て、これらの要因が事業者の費用構造へ与える影響を、構築・推定したトランスログ型総費用関数に基づいて分析し、その結果に基づき議論を行ったものである。欧米での改革の議論をふまえつつ、日本の改革の動きを紹介しただけでなく、ガバナンス問題といったホットで難しい問題を取り扱っている。公営バスの費用関数を堅実な手続きによって構築し、補助金が効率性を悪化させる可能性をもっていることを計量的に明らかにした点は評価される。海外の代表的な査読付き学術誌に掲載されていることも、学術水準は十分に高いと判断される。よって、学会賞(論文の部)に値するものと評価した。 | ||||
論文名 | Temporal Transferability of Updated Alternative-Specific Constants in Disaggregate Mode Choice Models | ||||
執筆者 | 三古 展弘 森川 高行 |
対象誌 | Transportation | 発行年 | 2010年 |
受賞理由 | 本論文は、非集計交通手段選択モデルの方法のなかで、特に定数項の移転性という手法に関しての純粋学術的な問題を取り扱ったものである。以前から、所要時間や費用などにかかるパラメータが移転可能であるとすることについて理論的根拠はあるものの、実際には説明変数では説明されない要因を含む定数項は時点や地点に固有の部分が大きいと考えられ疑問がもたれていた。本論文は、定数項の地域移転性と時間移転性を同時に分析し、この点での問題を解消している。 得られた結果は、政策的な示唆も与えている。過去のサービスレベルが将来の行動に影響を与えていること、同じ所要時間の短縮でも公共交通の時間の短縮と自動車の時間の短縮では行動に異なる影響を与えること、同じ所要時間でも以前よりも短くなったのか長くなったのかで行動が異なること、も示唆している。海外での代表的な査読付き学術誌に掲載されていることからも分かるように学術水準は十分に高いと判断される。よって、学会賞(論文の部)にふさわしい論文であると評価した。 |
【2010年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『道路投資の便益評価;理論と実践』 | ||||
著 者 | 森地 茂 金本 良嗣(編著) |
発行者 | 東洋経済新報社 | 発行年 | 2008年11月 |
受賞理由 | 本書は、道路投資の便益評価に関し、理論的側面と実践的な側面の両面から系統的に取りまとめた研究書である。全体は、2部構成からなり、1部では、「便益測定の方法」と「交通需要予測の方法」との関連性や、「費用便益分析マニュアル」の経済理論との整合性などを取り扱っている。ここでは、道路投資の便益評価について、包括的で精度が高い理論的な整理を行い、併せて、便益測定方法に関しての実施可能でかつ望ましい適用について、実務の立場から検討している。2部では、道路事業の費用分析において、今後重要となってくると考えられる論点である便益計測方法や交通需要予測の方法上の個別の課題の分析にあてており、誘発交通を考慮した便益計測、緊急輸送のリスクを含む計測、CO2の経済評価、財源調達との関連での検証など、既存文献において未整理であった領域を含めて、広範囲で多角的な検討を行っている。全体として、道路投資の費用便益分析の問題点を理論と実務の双方の観点からとりあげ、丹念に今日的な問題点を含む改善方策を探っている点は高く評価される。本書はこれまでの研究の集大成であるが,併せて、今後の研究の方向性も示していることから、内容の完成度が高く新規性を取り込む意欲的な取り組みの成果が結実されていることなどから、学会賞授与に値する著書と評価した。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「地域の自動車利用に対する費用負担に関する分析-燃料税に関する議論を中心に」 | ||||
執筆者 | 鈴木 裕介 | 対象誌 | 『交通学研究』(2009年研究年報) | 発行年 | 2010年3月 |
受賞理由 | 本論文は、自動車の外部費用について都道府県別、車種別に推計し、現在のガソリンなどの燃料課税がこれらの外部費用をどの程度カバーしているかについて詳細に検討している。併せて、道路整備水準と外部費用の関係を丹念にかつ系統的に分析を行っている。外部費用の算定モデルを用いたうえで入手可能なデータを駆使し、地域別・車種別の外部費用の推定を行っていることは、研究上、大きな貢献といえる。さらに、推計結果を用いて現在とられている政策を評価している点、政策形成上に有益な情報を提供している点も価値ある成果であり、学会賞授与に値する論文と評価した。 | ||||
論文名 | 「鉄道の上下分離に関する分析」 | ||||
執筆者 | 黒崎 文雄 | 対象誌 | 『交通学研究』(2009年研究年報) | 発行年 | 2010年3月 |
受賞理由 | 本論文は、リーズ大学に提出の博士論文の一部を取りまとめたもので、世界各国で実施された鉄道改革の中で特に上下分離政策をとりあげ、その形態と特徴を明らかにしたものである。多岐にわたる文献および各国の鉄道事業者の管理者等に対するインタビューと質問票に基づく分析によって、上下分離の形態種別と類型化を系統的に行い、それぞれの特徴を詳細に析出している点は評価される。さらに、市場構造に応じて適切と想定される上下分離の形態を提示し、今後の日本における事業契約に基づく鉄道経営の可能性を展望し政策上の示唆を提供している点も研究成果として価値ある成果であり、学会賞授与に値する論文と評価した。 |
【2009年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『対距離課金による道路整備』 | ||||
著 者 | 根本 敏則 味水 佑毅 |
発行者 | 勁草書房 | 発行年 | 2008年10月 |
受賞理由 | 今日、道路政策が転換期を迎えており、現実に公団の民営化や特定財源の一般財化等が進んでいるが、その後のあるべき姿が、必ずしも明瞭に見極められているとは言い難い。本書は、現在の制度疲労の問題と整備効率の改善をはかる制度改革の必要性についての認識を前提に、受益者負担の原則に立ち返り、なかでも、次世代型の場所、時間で対距離料金水準を変えられる対距離課金制度に注目し、分析を行っている。本書の骨子は、対距離課金の意義と目的を理論的に明らかにし、シミュレーションによる実証分析によって、対距離課金が短期的な交通需要管理、長期的な道路整備に寄与でき、それにより社会的限界費用に基づく課金を実現できることを示していることにある。道路利用者の受益と負担が一致する制度設計を目指して実証分析を行い、車種間、地域間の観点による自動車の費用負担に関する試算によって、貨物車への負担と地域間内部補助の比率について具体的提言を行っている点は、既存研究にみられない本書の特徴となっている。さらに、分析の出発点となる受益者負担の「理念」について、先行研究の検討をもとに入念に整理を行い、対距離課金制度の事例についても、導入が進んでいる欧州の事例についての充分なサーベイを行ったうえで検証結果を導きだしていることも、本書の価値を高める特徴点となっている。提唱される方式は、維持管理が中心となる時代の道路整備方式として適切であるだけでなく、受益者負担にもとると感じられてきた不均等を是正し、今後の投資計画に負担者の参加が得られやすいような仕組みとしても提唱されており、説得的なものなっている。一方、本題部分の比率が小さく、やや構成に不完全さがみられる。これらの課題はあるが、新たな視座で、先行研究に勝る理論的、実証的検証による成果をおさめていることから、本書は日本交通学会賞の授与に値するものとして評価される。 |
【2008年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『公共政策の変容と政策科学―日米航空輸送産業における2つの規制改革』 | ||||
著 者 | 秋吉 貴雄 | 発行者 | 有斐閣 | 発行年 | 2007年1月 |
受賞理由 | 本著は、政策決定過程についての理論的整理をもとに、米国および日本における航空規制緩和を事例として、政策が変容する政治的プロセスをモデル的に扱うフレームワークを構築し、航空規制緩和といった政策変容を対象に、日米の政策決定過程の差異とそれに関する要因分析を行ったものである。政策決定過程の理論的展開を行った前半部分では、政策決定過程の分析のフレームワークについて、従来の政策科学の主流であった多元主義とは異なる潮流をとらえて整理し、制度によるアクターの行動の制約、政策アィデアの構築、政策分析等によって得られた知識等をもとにする政策学習といった概念を示し、それぞれについて検討を行っている。後半の部分では、前半で検討した概念とフレームワークに照らして、日米間における政策経過と政策変容の差異と特質、それらの要因などについて、多くの第一次資料を駆使して検討を行い、80年代に開始される日本の規制緩和が競争制限的な内容にとどまっている諸元について解明を行っている。これによって、制度に関しては、航空局による「場」のコントロール、「割拠的自律性」が示され、政策遺産による制約、政策アィデアに関しては、それを推進する認識コミュニティが形成されず、規制緩和の価値観などについて混乱がみられ、最後のプロセスをなす政策学習に関しては、議論が尽くされず「学習の歪み」を生じたとして、明示的な結論を導き出している。交通の研究分野において、政策決定過程論について新たな分析の視座を提示して理論的検討を行い、これに照らして、複雑な政策変容に関して実証的な分析を試みその変容の要因を導き出している点は、ユニークであり、これまでの先行研究にみられない優れた研究実績といえる。以上から、学会賞の授与に値するものと評価できる。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「地域間道路の関連地域による連携的整備の一般均衡分析―居住地選択モデルへの拡張-」 | ||||
執筆者 | 福山 敬 田村 正文 |
対象誌 | 『交通学研究』(2006年研究年報) | 発行年 | 2007年3月 |
受賞理由 | 本論文は、地域政府が地域の税収を原資として地域間交通基盤施設の整備を地域自身が行うような地域分権的な交通基盤整備の可能性を一般均衡モデルによって分析したものである。地域政府が主体となり分権的に地域間インフラを整備する枠組みに関して分析が少ない先行研究の経過のなかにあって、各地域が地域間道路の自地域部分に関して整備水準を決定する「地域別整備制度」と、地域間道路を共有する2地域が共同出資により道路全体を同一水準に整備する「合同整備制度」という2つの分権的整備制度を設定して、各制度の下での各地方政府の整備決定とそれが経済に与える影響について,筆者らが行ってきた一連の分析は,地方分権下での中央政府による地域間所得移転の影響の分析を行っている点もあわせて,ユニークな研究成果と位置付けることができる。本論文ではこれまでに立地変更をしないと仮定してきたものを,住民が効用最大化をめざして居住地選択を行うことを可能としたモデルに拡張して定式化し,数値解析によって結論を導いている。分析によって、注目されるのは、「地域別整備制度」において、居住地選択モデルでは,地域政府の整備決定に以前の仮定の厳しいモデルではなかった戦略的代替性が現れえること、地域間所得移転の影響に関しては、居住地選択の導入により格差が是正し移転の役割が消滅することが明示されている点である。地方分権・連携の下での地域間インフラ整備の可能性についての分析を精緻化し、政策的示唆を導きだしている点で、学会賞に値するものと高く評価できる。 | ||||
論文名 | 「交通アクセスを考慮した観光地の魅力度評価」 | ||||
執筆者 | 鎌田 裕美 | 対象誌 | 『交通学研究』(2006年研究年報) | 発行年 | 2007年3月 |
受賞理由 | 本論文は、観光地の選択要因に影響を与える魅力度の計測を行い、交通アクセスの影響を考慮した上で消費者の観光地選択モデルを検討するものである。分析は、LancasterとRuggの消費者行動モデルにもとづいた効用関数を仮定し、定義した魅力度と交通アクセス条件に従って実証的レベルでの計測を行っている。魅力度について、既存研究では、スポット評価でとらえがちであるが、それにとどまらず、観光が即地性を有するために他の財より所要時間、費用等の制約が多いことから、スポット評価、交通アクセス、費用の範囲で計測方法の整理・検討を行い、わが国の一般的な観光地の一つである温泉地を対象として、コンジョイント分析などを援用し、計測の実証的検討を行っている。そして、その分析結果から観光地にとっての具体的戦略への示唆を導き出している。著者も指摘している今後の課題は残されているが、この領域の魅力度計測の研究について、理論に基づいた枠組みで計測する方法を整理したうえで実証的検討を行っていることは、既存研究にみられない大きな成果といえる。さらに、分析結果から、観光地間の競争において一定の戦略上の示唆を与える結果を導きだしているのも、本論文の価値を高める特徴点となっている。以上から、論文の部学会賞授与に値するものと判断される。 |
【2007年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『都市交通ネットワークの経済分析』 | ||||
著 者 | 竹内 健蔵 | 発行者 | 有斐閣 | 発行年 | 2006年10月 |
受賞理由 | 本書は、都市における交通のネットワークの問題を経済学のアプローチを使って分析したものである。著者の学位論文の一部に加筆修正を加えた全14章からなっており、質の高い労作といえる。主要な部分の出発点は、交通ネットワーク上で観察される交通調整を論理的に定義したワードロップの原理であり、それとそれを発展させた研究について、広範かつ包括的な検討を行うことによっている。そのうえで、交通政策上も重要な意味をもつネットワークにおけるパラドックスについて、その経緯、原因、理論的背景、政策的示唆に関し数値例を使って分析している。系統的な関連づけのなかでの実証的な可能性の検証は、分析を際立ったものにしている。これらに次ぐ鉄道と道路といった代替関係にある都市交通ネットワークの分析は、ロードプライシングや料金規制といった政策の最適化をネットワーク均衡に関連づけて検討しており、これまでにない新しい試みを示している。これに加え、分析結果については、仮想的数値例をシミュレートされ、そこから新たな知見も提示されている。さらに、相互に代替的な同一交通機関内のネットワークを取り上げ、そこでの最適料金問題について実証のシミュレーションを含め、多面的な分析がなされている。本書は、従来、経済分析がとりあつかわなかったネットワーク分析、交通量配分理論を経済学の視点から取りまとめた大著であり、本学会への貢献度は極めて高く、学会賞授賞文献としてまさに適格である。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「第三セクター地方鉄道の費用構造に関する計量分析」 | ||||
執筆者 | 大井 尚司 | 対象誌 | 『交通学研究』(2006年研究年報) | 発行年 | 2007年3月 |
受賞理由 | 本論文は、第三セクター地方鉄道を対象に費用構造について定量分析を行い、有益な知見を示したものである。従来、地方鉄道の経営面に関する定量分析の成果が少ない中で、データを丹念に整理・吟味したうえで、計量可能な形に仕上げ、民間との比較の観点から費用関数分析を行い、有意な形での結論を導き出している点は、注目すべき成果として評価できる。費用関数の推定にあたっては、基本統計量の十分な検討のうえで、従来のモデルに工夫を加えて、推定結果を導き、その結果に所有形態、制度上の差異を関連づけて含意ある解釈を行っている。結論は、経営上、政策上の示唆を含んでおり、この点も本論文の価値を高めている。最後の部分で、さらなる研究上の課題が提示されているが、若手研究者の成果として、むしろ、好感を与えるものとなっている。手堅い定量分析に努め、その分析結果に実効性をもたせており、学会賞授与文献としてまさに適格である。 |
【2006年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『米国航空政策の研究-規制政策と規制緩和の展開-』 | ||||
著 者 | 塩見 英治 | 発行者 | 文眞堂 | 発行年 | 2006年4月 |
受賞理由 |
本書は米国の航空政策を、1978年までの規制政策、それ以降の国内規制緩和、並びに国際自由化という3つの大きな枠組みで包括し、米国を中心とした航空産業組織構造の変化の主要項目をほぼ網羅して体系的に研究した労作である。航空規制に関しては、規制にさかのぼる前史および政策の成立についての膨大な論文ならびに資料を基に詳細な制度的分析を行っている。特に米国の議会資料や、散逸した戦前の資料あるいは学術論文を整理・検討している点は、今後この分野を志す研究者に対する大きな学術的貢献であると認められる。また規制緩和政策に関しては、労使関係、合併、価格戦略、発着枠配分ならびにCRSに関して問題点を検討し、将来的課題を整理している。その中で、従来はこれらの問題の発生から解決に向けての経緯と方策が幅広く均等に検討されてきたのに対し、著者はスロット及びCRS問題に関してより重点的な課題を選び検討するという、ある種の「戦略性」をもった制度的分析を行っている点が興味深い。 このように本書は、広範な課題を分析するという面で多くの制約を受けながらも、米国の規制緩和政策を日本に適用しようすればどうなるのかという分析視角を常に用意し、研究内容にしっかりとした筋道を与えて、分析結果に実効性を持たせようと努力しており、学会賞授賞文献としてまさに適格である。 |
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著書名 | 『交通混雑の理論と政策 -時間・都市空間・ネットワーク-』 | ||||
著 者 | 文 世一 | 発行者 | 東洋経済新報社 | 発行年 | 2005年12月 |
受賞理由 |
本書は、ピークロードや混雑税の理論を都市の空間構造を踏まえて論じたパイオニア的な成果であり、先端の成果を多く含んでいることも注目に値する。以前は,ともすれば机上の議論と考えられてきた混雑料金やロードプライシングが最近では現実的な政策の選択肢となってきている。しかし,そのオリジナルアイデアを提示した経済学(経済分析)は、実際の料金政策の決定や制度の設計に際しての貢献では力不足となっている。その背景には、著者の指摘するように、混雑料金に関する従来の経済理論の中心が、単一の交通施設を対象とした静学モデルであったことがある。この点を打破し、混雑料金について「いつ」、「どこで」の問題を取り扱うために考察を時間および空間の次元に拡張し、より現実的な政策分析を展開した本書の貢献は大きい。 このような理論の発展に向けての努力の結果、著者の成果を含めて、近年多様な研究蓄積が急速に進みつつある。本書が、これらを体系的に整理して提示している点も今後同分野の研究を志す者にとって有用である。理論的研究と定量的研究も整合的であり、さらに,混雑の経済理論のみならずこれに関連する交通工学分野の議論を同時に学べる点も、本書の特色である。このように本書は、現代的課題である交通混雑について、時間・空間に拡張した経済モデルを用いて、実際の経済政策への活用を図った労作であり、学会賞授賞文献としてまさに適格である。 |
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■論文の部 | |||||
論文名 | 「低費用航空会社参入の経済効果と時間効果の計測―米国3社寡占市場のケース―」 | ||||
執筆者 | 村上 英樹 | 対象誌 | 『交通学研究』(2005年研究年報) | 発行年 | 2006年3月 |
受賞理由 | 本論文は、米国における低費用航空会社(LCC)の新規参入効果がどの程度の期間持続するかを、交通経済学と産業組織論の既存の研究成果を融合することにより理論的・実証的に明らかにした上で、消費者余剰への新規参入の影響がどのように推移するかを分析している。本論文の貢献は、①米国における従来の研究では、低費用が低運賃に直結するかについては、直感的な合意をもとに論理を展開し、また「輸送密度の経済性」の存在に理論的に配慮していない点を改め、これらの理論的枠組みを補った上で計量経済モデルを構築していること、②LCCの新規参入直後の運賃と輸送量への効果を3段階最小2乗法による構造方程式の推定を通じて明らかにしたこと、③新規参入後の運賃と輸送量の推移を、拠点空港のみならずセカンダリ空港のケースも含め明らかにしたこと、ならびに④新規参入政策を、消費者余剰の推移を基準にして、国民経済的な面から評価していること、つまり、財務的に健全な企業が参入した場合には運賃水準が修復されることなく低水準で安定し、消費者余剰が大幅に増加するのに対し、脆弱な財務状況の企業が新規参入を行った場合には逆の結果が現れることを明らかにしたこと、である。特に④の点は、新規参入が政策介入により選択的に行われる必要性があることを示唆している点でも重要である。もっとも線型理論モデルの一般化と生産者余剰を考慮した総余剰分析面に課題を残すとしても、学会賞授賞文献としてまさに適格である。 |
【2005年度】 | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「産業連関表における自家輸送部門の修正―粗付加価値の導入による現実への接近」 | ||||
執筆者 | 加藤 一誠 太田 和博 |
対象誌 | 『交通学研究』(2004年研究年報) | 発行年 | 2005年3月 |
受賞理由 | 本論文は大きな比重を占めながらも全体像のつかみにくい自家輸送を産業連関表から抽出し、粗付加価値を含む自家輸送部門の規模と態様を明らかすることを意図している。日本の産業連関表における自家輸送マトリックスに粗付加価値が含まれていない問題点を回避することをめざして,既存データを用いてこの短所を修正する試みとして、本論文では、営業輸送部門の粗付加価値率を利用することを提示し,それによって自家輸送部門の影響力係数と感応度係数がどのように変化したかを観察・確認して、修正方法の妥当性を検証し、概ね良好な結果を得ている。なおこの方法に基づく修正産業連関表も第一オーサーである加藤氏単著の近刊論文として発表される予定であり、研究の着実な発展が期待できる。このように本論文は、わが国経済に占める物流部門の位置付けに対するより正しい理解を促進するとともに,運輸統計整備のあり方ともかかわって、今後の交通経済分析に大きく貢献する可能性を有するものと評価でき、学会賞授賞文献として適格である。 | ||||
論文名 | 「交通手段選択行動におけるサービス属性の評価について」 | ||||
執筆者 | 毛海 千佳子 | 対象誌 | 『交通学研究』(2004年研究年報) | 発行年 | 2005年3月 |
受賞理由 | 本論文は、伝統的な離散選択モデルの想定とは異なり、各個人は同一の市場情報を保有していないとの視点より,従来ブラックボックスとして取扱いが回避されてきたサービス品質等に対する個人間の知覚の違いといった要素を研究に取り込むことが重要であるとの認識の下で,少ない先行研究をよく整理吟味したうえで、果たしてサービス属性に対する主観的評価が交通手段の選択行動にどのように影響を与えるのかを,尼崎市民が市役所に行くケースについて、バス、自動車、および自家用車の3手段の属性をあらかじめ示した上で回答によって得たデータを用いて各属性の有意度を求めようとしており、交通手段選択推計のひとつのアプローチを示したものといえる。この分析結果だけでは一般化を図るには不十分であり,また分析手法に対し異論はありうるとしても、新たな分野に挑戦したという努力は高く評価されるべきであり、本論文は学会賞授賞文献として適格である。 |
【2004年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『交通経済論の展開』 | ||||
著 者 | 衛藤 卓也 | 発行者 | 千倉書房 | 発行年 | 2003年9月 |
受賞理由 | 本書は、交通経済学の体系化を目指して執筆されたもので、方法論、現状分析、「あり方」の3部から構成されている。広範な問題とその認識に言及しながらも、交通経済研究において幾分稀薄になっていた感のある「交通経済論の体系化」という課題を、全編を通じてきわめて強く意識しながら、交通サービス、交通市場、規制、規制緩和の分析を展開している。これらの分析対象の「現状」および「あり方」を、一貫して理想的モビリティ社会の構築への寄与という視点から整理しようとした著者の姿勢そのものが、その着実な論理展開と合わせて、高く評価されるものである。このように、現状認識から理想像を構想・吟味し、それを「目標」として設定した上で、望ましい複数の「手段」を比較考量して形成された規範的な知識体系を、社会構成員の多くが合意できるかどうかのチェックを試みることによって、現状と現実の政策の「評価」を行い、改善のための「対策」を提示していることは、今後の学会の社会貢献に対し大きな一石を投じるものといえる。交通政策論の基本を押えた意欲的労作として、学会賞授賞文献としてまさに適格である。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「米国都市交通資本整備に対するISTEAおよびTEA-21の効果と評価~フレキシブル・ファンドの制度的枠組みを中心に~」 | ||||
執筆者 | 川尻 亜紀 | 対象誌 | 『交通学研究』(2003年研究年報) | 発行年 | 2004年3月 |
受賞理由 | 本論文は、米国の1991年インターモーダル陸上交通効率化法において道路と公共交通の間での資金流用を許容するプログラムとして導入されたフレキシブル・ファンドを分析対象とし、その運用実績の確認を通じて連邦陸上交通政策の問題点を検討している。調査研究機関の研究員としての立場を活用した調査・検討は詳細を極めており、その内容の整理と紹介自体が、本論文の貢献点として評価される。それにとどまらず本論文は、当該研究課題に関する先行研究の考察を超えて、ファンドの活用実績における「地域差」に関する分析を一層深めており、この点はわが国公共交通整備の制度構築のための議論の一助となると高く評価でき、学会賞授賞文献として適格である。 | ||||
論文名 | 「運輸事業の規制緩和と経済厚生―道路貨物輸送事業を対象として―」 | ||||
執筆者 | 水谷 淳 | 対象誌 | 『運輸政策研究』Vol.6, No.2 | 発行年 | 2003年7月 |
受賞理由 | 本論文は、1990年のいわゆる物流二法の施行以降の道路貨物輸送事業に対する大幅な規制緩和によってもたらされた経済厚生改善効果を、その評価のために構築された独自のモデルを活用して、計量経済的に分析・評価した研究である。制度の変化をモデル化するとともに、現実に照らしてデータの取捨選択に努めることによって、構造変化を組み込んだモデル分析を展開した結果、規制緩和による荷主の厚生改善を導いている。これは先行諸研究の分析結果とも整合しており、適切な判断と解釈がなされているものと評価できる。現実から遊離せず、着実な研究努力を積み上げたモデル分析は、意義ある政策評価として結実しており、本論文は学会賞授賞文献として適格である。 |
【2003年度】 | |||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「道路投資評価における費用負担分析に関する一考察」 | ||||
執筆者 | 味水 佑毅 | 対象誌 | 『交通学研究』(2002年研究年報) | 発行年 | 2003年3月 |
受賞理由 | わが国においては、公共投資の費用対効果の問題は、以前より、実務の分野のみならず研究分野においても多くの議論がなされてきたけれども、個々の投資の資金が誰によって負担されてきたかについては、あまり議論されてこなかった。本論文は、地域的な資金配分の妥当性を考えるために、交通社会資本整備の政策評価手法に公平性の評価基準が欠如していることの問題認識から出発し、費用便益分析のような効率性の分析手法に加え、利用者グループをプール化することにより、自地域の負担額と地域間内部補助による調整後の自地域の投資額を比較した費用負担分析の導入の必要性を強調し、簡単なモデルにより、理論的検討を行う手法を提示している。そのアイディア自体は既往のものであるが、シナリオの設定とモデル分析によって「費用負担分析」を実行し、その公平性評価分析への活用可能性をある程度まで説得的に示した点に価値が認められる。このように本論文は、現実の交通政策への適用可能性を念頭におき、政策論と学問的手法を整合させたという点で、学会賞授賞候補文献として適格である。 |
【2002年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『都市公共交通政策―民間供給と公的規制―』 | ||||
著 者 | 正司 健一 | 発行者 | 千倉書房 | 発行年 | 2001年5月 |
受賞理由 | 本書は私鉄企業の事業展開を公共交通サービスの民間供給と公的規制のかかわりの側面から検討を加えることによって、量的にもまた質的にも私鉄企業が重要部分を占めるわが国の都市交通システムを、政府の規制・助成の視点と自立採算型経営を行う私鉄企業経営の視点の両面より総合的かつ体系的に分析した労作である。特に的確な経済理論に裏づけられた政策分析は強い説得力を持ち、また私鉄の多角的事業展開に関する数量分析は政策論の枠を超え、本研究に一段の厚みを加えているなど、その業績は高く評価できる。 | ||||
著書名 | 『バス産業の規制緩和』 | ||||
著 者 | 寺田 一薫 | 発行者 | 日本評論社 | 発行年 | 2002年1月 |
受賞理由 | 本書はダイナミックに変化するバス事業の規制緩和問題を中心に、特にこの分野において先進的なイギリス及びフィンランドの政策を詳細に紹介し、それとわが国のバス事業の実態と政策を対比の上、政策評価の提言を試みた労作である。特にバス輸送政策に関する豊富な海外フィールド研究を単なる状況紹介や表面的研究に終わらせず、経済理論との整合性にも留意しながら、学問的水準の高い体系的研究にまで高めた点は、これまで理論的蓄積が比較的少なかった分野における集大成的業績として高く評価できる。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「費用便益分析再論―ネットワークに焦点を当てて―」 | ||||
執筆者 | 城所 幸弘 | 対象誌 | 『交通学研究』(2001年研究年報) | 発行年 | 2002年3月 |
受賞理由 | 本論文は交通サービスのネットワークの便益測定に当たって、ネットワークを明示的に考慮した経済理論モデルを応用して分析し、現行の便益測定計算に改善するべき余地があることを理論的に整理解明しようとした意欲的な研究であり、交通投資評価の基礎理論の強化に資する可能性が高いと評価できる。なお同様のテーマは、同氏の『運輸政策研究』15号、2002年1月掲載論文でも扱われている。 | ||||
論文名 | 「交通環境負荷軽減のための経済的手法の比較検討―ロードプライシングと燃料税」 | ||||
執筆者 | 岡田 啓 | 対象誌 | 『交通学研究』(2001年研究年報) | 発行年 | 2002年3月 |
受賞理由 | 本論文は、ロードプライシングと燃料税の持つ環境負荷軽減効果を比較分析するに当たり、混雑税理論に工夫を加えることによって、比較の枠組み及び手法の妥当性に周到な配慮を加えながら定量的な分析を試みて、交通量、環境汚染物質排出量に対する政策効果を比較した労作であり、環境税の導入と既存の税制との調整などの問題にも有用な示唆を与えるものと高く評価できる。 |
【2001年度】 | |||||
■著書の部 | |||||
著書名 | 『現代欧州の交通政策と鉄道改革-上下分離とオープンアクセス-』 | ||||
著 者 | 堀 雅通 | 発行者 | 税務経理協会 | 発行年 | 2000年4月 |
受賞理由 | 本書は欧州における鉄道改革という重要課題に上下分離政策を中心に取り組んだ本格的な研究であり、内外を問わず多数の文献を渉猟され、本テーマに関わる海外事情の整理・紹介と言う面では、刊行後1年以上が経過した現在もなお、われわれが利用できる最も詳細な研究成果であり続けている。そこでは制度と経営環境を含めた報告と議論が展開されているが、単なる欧州の報告に終始せず、北米やアジアの例も含めて政策的含意を明らかにしようという努力が認められる。同時にこれらの政策の背後にあるロジックを理論に基づいて明らかにしようという積極的一面も評価できる。インフラ使用料政策やコンテスタビリティ理論の応用について内容的に未完と見られる部分も含まれるが、今後の研究に待ちたいと思う。本書は欧州における鉄道の上下分離の実証研究としては見逃しがたい労作であり、学会賞授賞文献としてまさに適格である。 | ||||
著書名 | 『EU陸上交通政策の制度的展開-道路と鉄道をめぐって-』 | ||||
著 者 | 中村 徹 | 発行者 | 日本経済評論社 | 発行年 | 2000年10月 |
受賞理由 | 本書はEUの発足時から現在にいたる英国およびヨーロッパの交通政策にうち、特に道路と鉄道の交通政策の展開過程を詳細に跡づけ、これらの政策が環境問題を重視した交通調整政策としての体系性を有する点を解明した労作である。これまでもこの種の研究はすでにいくつか散見されるが、EU関連の第一次資料をこれほど豊富かつ丹念に渉猟した業績は類を見ないであろう。特に、道路貨物料金の自由化、道路貨物輸送の自由化、道路輸送部門における社会的規制の調和、道路関連税をめぐる議論の部分は、とりわけEUの陸上輸送の自由化が抱える問題とその現実的解決策について、日本の現在の政策論議に貴重な示唆を与えるものである。その際EUの掲げる誘導的需要調整政策の誘導効果につき、もう一歩踏み込んだ著者独自の研究の展開があればさらに説得力が高まったと惜しまれる。この点は今後の研究に期待したい。本来地味でしかも複雑な様相を持つEUの国際貨物輸送をテーマに、その積極的交通政策の展開を解明しようとした労作はまさに学会賞授賞文献として適格である。 | ||||
■論文の部 | |||||
論文名 | 「株式市場に見る経済的規制の緩和による影響-航空産業を事例として-」 | ||||
執筆者 | 手塚 広一郎 | 対象誌 | 『交通学研究』(2000年研究年報) | 発行年 | 2001年3月 |
受賞理由 | 本論文は90年代後半に我が国で実施された航空輸送産業に対する規制緩和がその資本市場、特に株式市場にどのような影響を与えたのかを定量的に分析しようとする意欲的な研究である。資本投資家のリスク回避に対する期待形成モデルに基づき、Peltzmanなどの既存研究を参考にしつつ、参入規制緩和が既存航空会社の収益上のリスクを高めたのかどうかを、個別的には対応不可能なシステマティック・リスクの符号と数値の変化を通じて統計的に実証しようとして、選択的な収益率決定モデルを構築し、その推定結果をダミー変数法とChowテストによって検証している。そこでは、システマティック・リスクが参入規制の緩和によって高まったという、株式市場の判断が導かれている。これに対しては、株式市場の効率性という短期指標が交通企業評価という本来より長期の判断とどのように結びつくかどうかが明確でなく、また著者自身が認めるように計量分析上の問題も多い。しかし株式市場を分析するという発想の新鮮さは高く評価されるべきであり、今後の研究の継続に期待を寄せることのできる研究成果として、学会賞授賞文献として適格である。 | ||||
論文名 | 「英国バス市場における入札制度と契約」 | ||||
執筆者 | 田邉 勝巳 | 対象誌 | 『交通学研究』(2000年研究年報) | 発行年 | 2001年3月 |
受賞理由 | 本論文は、英国乗合バスの非採算路線サービスに対する競争入札制度の2つの代表的方式である順費用入札と総費用入札の比較分析を、英国の約15年間の実績やこれをテーマとして1995年以降に発表された外国文献を中心として行い、さらにロンドンのフランチャイズ方式も分析に加えている。これまでの交通市場の規制緩和に関して、入札制度の紹介やその経済分析がほとんど見られなかった状況に鑑みて、本論文の貢献が認められる。論述は正確で緻密であり、経済理論との整合性も配慮されており、交通政策研究の論文として水準が高い。もっとも共通価値入札に関する説明が不十分であるなど、改善が必要な余地も残されているが、三方式の比較分析の内容は的確であり、現場への応用性が高く、今後我が国において導入が想定されるバスサービスの入札制度の検討に当たっての有効な資料となるであろうという意味で、学会賞授賞文献として適格である。 |
2000 | 著書 | クルマ社会 アメリカの模索 | 西村 弘 | 大阪市立大学 |
著書 | アメリカ物流改革の構造 | 斎藤 実 | 神奈川大学 | |
論文 | 交通サービスの自発的供給は可能か? ― 理論的フレームワーク ― | 湧口 清隆 | 一橋大学 | |
論文 | 中核国際港湾整備の効果と今後の方向 | 岡本 直久 | 筑波大学 | |
1999 | 著書 | 米国航空規制緩和をめぐる諸議論の展開 | 高橋 望 | 関西大学 |
1998 | 著書 | 道路投資の社会経済評価 | 中村 英夫 | 武蔵工業大学 |
1997 | 著書 | 私鉄運賃の研究-大都市私鉄の運賃改定1945-95年 | 森谷 英樹 | 敬愛大学 |
1996 | 著書 | 近代日本海運とアジア | 片山 邦雄 | 大阪学院大学 |
著書 | Japanese Urban Railways :A Private-Public Comparison | 水谷 文俊 | 神戸大学 | |
1995 | 著書 | 発展途上国交通経済論 | 土井 正幸 | 神戸商科大学 |
1994 | 著書 | 日本の国際物流システム | 宮下 國生 | 神戸大学 |
1993 | 著書 | 近代日本交通労働史研究 | 武知 京三 | 近畿大学 |
1992 | 著書 | 交通市場政策の構造 | 斎藤 峻彦 | 近畿大学 |
1991 | 著書 | 交通の未来展望 | 角本 良平 | 運輸経済研究センター |
著書 | 現代交通論 | |||
1990 | 著書 | 航空輸送 | 増井 健一 | 松坂大学 |
山内 弘隆 | 中京大学 | |||
著書 | 道路貨物運送政策の軌跡 | 谷利 亨 | 日通総合研究所 | |
1989 | 論文 | 現代アメリカ鉄道研究序説 | 野田 秋雄 | 久留米大学 |
1988 | 著書 | 交通行動分析 | 近藤 勝直 | 流通科学大学 |
1987 | 著書 | 交通の計画と経営 | 武田 文夫 | 高速道路調査会 |
1986 | 著書 | 西ドイツ交通政策研究 | 杉山 雅洋 | 早稲田大学 |
1983 | 著書 | 貨物輸送の自動車化 -戦後過程の経済分析- | 村尾 質 | 神奈川大学 |
1982 | 著書 | 海運業の設備投資行動 | 宮下 國生 | 神戸大学 |
1981 | 著書 | アメリカ国民経済の生成と鉄道建設 | 生田 保夫 | 流通経済大学 |
著書 | 都市の経済分析 | 山田 浩之 | 京都大学 | |
1980 | 著書 | 海上運賃の経済分析 | 下条 哲司 | 神戸大学 |
1978 | 著書 | 海運産業論 | 池田 知平 | 一橋大学 |
著書 | 輸送計画の研究 | 小林 清晃 | 甲南大学 | |
1977 | 著書 | 海運経済論 | 織田 政夫 | 東京商船大学 |
1976 | 著書 | 帝政ロシア交通政策史 | 池田 博行 | 専修大学 |
論文 | タウシツク = ピグー論争 | 伊勢田 穆 | 香川大学 | |
1975 | 著書 | 海運論 | 東海林 滋 | 関西大学 |
論文 | 私鉄経営と運賃問題 | 山口 亮 | 運輸調査局 | |
1974 | 著書 | 現代日本の交通政策 | 中西 健一 | 大阪市立大学 |
1973 | 著書 | 海陸複合輸送の研究 | 坂田 秀雄 | 山下新日本汽船 |
著書 | 鉄道運賃学説史 | 丸茂 新 | 関西学院大学 | |
1972 | 著書 | 社会主義交論 | 平井 都士夫 | 大阪市立大学 |
論文 | 社会的費用の問題 | 中島 勇次 | 運輸調査局 | |
1971 | 著書 | 地方公営企業の研究 | 蔵園 進 | 武蔵大学 |
著書 | 物資輸送量の計測と予測 | 鈴木 啓祐 | 流通経済大学 | |
論文 | 中世後期地中海・北海海運企業史論究 | 松本 一郎 | 海事交通文化研究所 | |
1970 | 著書 | 都市交通論 | 角本 良平 | 早稲田大学 |
論文 | 都市と交通と投資基準としての外部経済論 | 榊原 胖夫 | 同志社大学 | |
1969 | 著書 | 現代日本の交通経済 | 佐波 宣平 | 京都大字 |
論文 | 道路サービスの価格形成と道路財源の問題 | 岡野 行秀 | 東京大学 | |
1968 | 著書 | 交通労働の研究 | 佐竹 義昌 | 学習院大学 |
本書は特にすぐれた研究労作として日本交通学会の研究水準と名声の高揚に貢献したので、本学会の特別賞とする。なお、当賞は日本交通学会賞特別賞ではありませんのでご注意ください。
2004 | 著書 | 『日本物流業のグローバル競争』 | 宮下 國生 |